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金縛/ cino ページ17

#解禁




積まれた金は恐らく後にも先にも見る事が叶わない程の大金だった。流石の商人も辟易する程だ。呆気に取られているその場の人間に彼は恭しくお辞儀をして、商品である私を至極大切そうに抱き上げた。唐突に変わる視界に目が回ったが、彼はそれに構う事無くずんずんと歩き出した。彼の首から下がった懐中時計がぺちぺちと太腿に当たる。

「グルッペンさん、すみません、馬車迄手配して貰って。」
「別に構わん。この借りは珈琲一杯で返してくれ。」

グルッペン、と彼に呼ばれた男はそれだけ告げると満足気に彼から去ってしまった。ふわり、と微かに巻いた空気の中に嗅ぎ慣れた死臭が紛れている様な気がしたが、それもすぐに空気に溶け込んで分からなくなってしまった。

「すまんなぁ、中々俺も面倒な人間なんよ。」
「おにいさんはめんどくさいひと?」

その物言いが面白かったのか、彼はくすりと控え目に笑った。そして抱え直すとオークション会場から外に繋がる扉を開けた。眩い光が目を焼く。今は昼間だからか、特に眩しく感じられた。彼は慣れているとばかりに暫く舗装された裏路地を抜けて馬車にと乗り込む。

「3番街の外れのスパゲティ屋さんまで。」
「……はいよ。」

ぐらり、と車体が動き出した。馬車が軽快に走り始める。その間、私は彼の膝上に座らされていた。小汚い貧民の娘をその様に愛玩する彼の趣味は全くもって理解出来ないが、私の雇主であり、命の恩人である以上逆らう訳にもいかない。

「そんなに緊張せんくてもええのに。」
「ごめんなさい。」

謝れば彼は寂しげに笑った。彼の機嫌を損ねたのでは、と内心は気が気では無かったが、彼はそこまで心が狭い矮小な人間では無かったらしい。結局それから彼の屋敷に着くまで一言も交さなかった。相変わらず彼は私をアンティークドール宛らに丁重に扱っていたが。

「此処が俺の家やで。この屋敷の中なら何をしてもええよ。外に出なければ何でも。」

彼はそう言って私の汚い頭を軽く撫でた。そのまま私を抱えて浴室へと向かう。彼の趣味の良さか、何なのか。御伽噺でしか見た事の無い、豪勢な猫足バスタブ。ジャクジーも付いており、シャワールーム、トイレ、バスルームが全て其々分断されていた。

金縛/ cino→←ジュエルボックス/ eml


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  • 恋愛運: ★★★☆☆
  • 健康運: ★★★★★
  • 全体運: ★★★☆☆


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鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください!!!!(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……?さくら……さく……ら……?桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2019年9月19日 22時

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