空気ごと閉じ込めて ページ37
#
「どうしたら、その表情を拭い去れますか。そんな縋るような顔をする貴女を置いていけません。」
目線を合わせるために先程よりも屈まれる。私はそんな彼の行動に驚き、本を握りしめることしかできなかった。そうして時間が硬直する。
そのままさらに距離が縮まり、私を壊れ物を扱うかのように優しく抱擁する。まさしく掬うような動作だった。彼は優しく、魔法を囁くように脳に直接語りかける。
「本当にすぐ戻りますから。」
そうして優しく頭を撫でながら、彼の匂いに包まれる。染み付いたコーヒーと煙草とインクの香り。微かにホルマリンの匂いがする。彼の白衣に染み付いたのは彼の趣味の香り。何処か懐かしく安心するような。
「ほんと、ですか？」
虚ろな彼女。うわ言のように呟かれたその言葉を吞み下す。そうしてドロドロに溶けて惚けて思考停止している彼女に言葉を流し込む。彼女の脳は今は軽い洗脳状態にあるのだ。彼女の香りを軽く吸い込んで言葉を紡ぐ。
「本のお話も好きですが、少しでも貴女と長くいたいんです。」
「へ、」
彼は大胆に言い放った。こんな不甲斐ない私といたいなんて。あまりにも光栄で感極まるものだった。呆然とするのも仕方ない。
「迷惑でも何でもないですよ。貴女といるのが楽しくて心地いいんです。貴女のことを何とも想っていなければ、貴女のことをほっぽり出して今頃、向かっています。」
彼は抱擁を解き、私の頭に手を乗せたまま目を細めた。生まれつきらしい白い天使の羽よりずっと白い目が透き通るような睫毛に隠される。ここまで率直に告白されれば、大人しく彼の帰りを待つしかない。それくらい我慢できる。彼は犬にでも命令するように残酷に、されど優しく私に決定権のない質問をする。
「少しの間、イイコで、大人しく、待っていてください。」
「はい」
彼はそういう人だ。握りしめた本を更に強く握る。軽く頭を一撫でして彼の温もりが離れる。私の方を一度も振り返ることなく、彼は図書館を去った。
彼の背中を見えなくなってもそちらを見つめ続ける。大丈夫。私は約束を守ってお留守番できます。貴方に恋い焦がれて。貴方がこちらへ戻ってくるまで何時迄も、そう。
イ ツ マ デ モ 。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯さん» リクエスト消化してくださりありがとうございます！流石鵯さま、期待以上のお話が読めて嬉しい限りです。良ければまたリクエストさせてくださいね。ありがとうございました！ (2017年12月29日 19時) (
レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(プロフ) - (´・ω・`)Loveさん» 大丈夫ですよ。ありがとうございます。気長にお待ちくださいませ。 (2017年12月28日 21時) (レス) id: 10532b6a12 (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯のさえずりというページは消されたみたいですけど、リクエストってまだ受け付けてますか？もし大丈夫でしたら飴の出てくるほのぼのとしたお話が読みたいです！……こ、こういうリクエストも平気ですか？ (2017年12月28日 10時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鵯
| 作成日時：2017年12月20日 18時
