浪漫は待たない ページ5
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それはお勘定を払うときの当たり前の仕草で。受け取らなければならないのに手が動かない。きっとこれを受けとってしまったら彼はいつものようにいなくなってしまうだろう。
けれど染み付いた動作は私の意識にゆっくりと逆らって彼の手のひらを包む。そうして彼の体温が仄かに残った貨幣を受け取るのだ。
「またね、A。」
ああ、逝ってしまう、消えてしまう。浪漫が過ぎ去ってしまう。にっこりと人の好い笑みを浮かべる貴方を見て、もしかしたら私の目が黒いうちにはもう二度と見れないかもしれないその笑顔を見て。そんなことが頭をよぎる。彼の体温を感じられるのはもう最後かもしれない。嫌な考え。けれど現実味のある考え。もうそんなこと考えてしまったら。
「いかないで。」
考えるより先に行動する体。あのときと同じ誰もいない店内。私は大胆に彼に後ろから抱きついた。はしたないとは思う。けれど彼の体温を今、この瞬間に感じられるのなら下品な女に成り下がっても構わない。私よりもずっと背の高い彼から見たらしがみついているようにしか見えないだろうけど、実際外に行かせまいとしているのだから間違ってはいない。
「俺、本当はね、行きたくないんだ。戦争は好きじゃない。」
今まで一度も聞くことのなかった彼の本音。彼は平和を望む白鳩だった。けれど現実はそうではない。戦争をするしかないのが現状なのだ。
「ごめん、困らせるようなこと言って。」
彼は物憂げにはにかむ。彼の小さな闇が垣間見えた気がした。
「いえ、私こそこんなはしたない真似を。」
今更ながらに恥ずかしくなって慌てて彼から離れる。気の迷いなんかで行動を起こしてはならないことを学んだ。
「ふふ。次は軍人じゃなくて農夫として生まれたいな」
振り返ってそう言い放つ彼。無邪気でいて無垢な願い。彼は自分の死期を悟ったかのようにそう告げた。必ず戻ってくると私に約束させたくせに。そういうのはずるい。
見つめればかち合う瞳。レンズの奥のネイビーが空気を浸食する。そうして冬の日差し見たいに朗らかに微笑まれる。
「じゃあ、A。」
ー征ってきますー
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯さん» リクエスト消化してくださりありがとうございます!流石鵯さま、期待以上のお話が読めて嬉しい限りです。良ければまたリクエストさせてくださいね。ありがとうございました! (2017年12月29日 19時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(プロフ) - (´・ω・`)Loveさん» 大丈夫ですよ。ありがとうございます。気長にお待ちくださいませ。 (2017年12月28日 21時) (レス) id: 10532b6a12 (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯のさえずりというページは消されたみたいですけど、リクエストってまだ受け付けてますか?もし大丈夫でしたら飴の出てくるほのぼのとしたお話が読みたいです!……こ、こういうリクエストも平気ですか? (2017年12月28日 10時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年12月20日 18時