糸切り歯/ shorn* ページ17
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「すぃ、過ぎ。」
「ごめんな。」
瞼を押し上げて見つめられた金の瞳。相当の苦痛を味わったのだろう。潤んだ寝起きの瞳には涙の膜が張られていた。彼女は荒い呼吸を繰り返しながら咳き込んだ。ヴァンパイアの力のお陰もあり、彼女の吸血痕はもう跡形も無く消えてしまっている。しかし、ヴァンパイア属の治癒力の話であって、吸血した際の出血がなくなるわけでは無いのだ。
「勘弁、して。」
「無理さしてごめんな。」
彼女の頬に貼り付いた血痕を優しく指で掬ってやる。彼女は煩わしいと言いたげに此方を睨んだが、俺にしてみればそれすらも可愛らしい。愛おしくてそのまま彼女の涙で濡れた頬に舌を這わせれば、本格的に悪寒が走ったのか、そのまま喉仏にがり、と牙を立てられた。
「あ"っ、」
「ん"、ぁ。」
深々と刺さる牙に声諸共奪われる。吸血されている感覚がむず痒い。彼女の方を見つめてやれば、彼女は虚な瞳で、ただただ糧となるだけの血液を舐めているばかり。ぐちゅぐちゅと体液同士が絡み合う水音が空間に響くばかり。嗚咽に塗れた俺の声が軋み、歪み、潰れてゆく。
「い、たん、すと、ぷ。」
「ん、はあ。」
辛うじて途切れ途切れではあったが、彼女に対して意思を伝える。本能に突き動かされている最中と言えども流石に意識は此方に傾いていたらしく、忠告すれば、すぐに首から離れてくれた。俺の首から彼女の方向へ飲み残された血液がぽたぽたと降り注ぐ。彼女はその様子を恍惚とした表情で眺めていた。
「しゃおろ、血、綺麗。」
「ごめ、もう、無理。」
ぐらり。視界と脳味噌が揺れる。そのまま彼女の隣に倒れ込んだ。上質なマットレスが体重とそれに付随する衝撃を緩和した為、痛みはない。がしゃん、と思い鎖の音が一際大きく響いて俺を軽く引っ張った。彼女はそんな様子の俺を軽蔑する事なく此方に笑顔を向ける。
「もうちょっと、寝よ？」
「せや、な。」
がしゃがしゃと忙しない鎖の音を立てて彼女に手を伸ばす。同色に染まった虹彩が月光を浴びてまたとなく金に光る。彼女の月宛らに冷たい体温を抱きしめて瞼を伏せた。二人だけの優しい世界に何も要らない。こうしてお互いを求めあえればそれでいい。
#リクエスト、ヤンデレシャオロン。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ちゆさん» コメント賜り誠に恐縮でございます。お気に召された様で何よりと存じます。あの頃が懐かしく感じますね。こちらこそ長きに渡りご愛顧ありがとうございます。これからも細々と書き連ねて参りますので、是非続編にもお越しくださればと思います。 (2020年7月20日 16時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ちゆ(プロフ) - コメント失礼致します。措定エートスに感銘を受けました。鵯さまの文章の中でも特にお気に入りです。わたしの一番のお気に入りは陥穽モラトリアムなのですが、それと並ぶ程です。いつも素晴らしい作品をありがとうございます。これからも陰ながら応援しております。 (2020年7月20日 14時) (レス) id: 6c19e7d8ad (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - ぴよりさん» リクエストありがとうございました。御眼鏡に適った様で何よりと存じます。またのご閲覧お待ち申し上げております。 (2020年5月30日 8時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぴより - 早速読ませていただきました！鵯さまの書かれる、美しさの中に闇を感じる文が本当に大好きです！ありがとうございました！ (2020年5月29日 23時) (レス) id: b50fafb894 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - ぴよりさん» ご愛顧いただきありがとうございます。前作のは中々難産でした為、今回も大幅に時間を取らせて頂きますことご理解ください。リクエスト承りました。気長にお待ち下さいませ。 (2020年5月28日 8時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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