狂犬

その後 ページ44

お互いの想いが通じ合い、結ばれた2人。
その幸せな空間を壊したのは、以外にも元軍人だった。

｢うむ、素晴らしいものを見た。
詳細は分からないが、おめでとう。左馬刻｣

｢ちょ、理鶯!?貴方もっと空気を…!｣

その仲間の声に、左馬刻は我に返った。

そして10分後。

｢さ、桜城組組長…だと…｣

銃兎が若干震える声で、有り得ないとでも言うように言った。

｢小官は、こちらの世界に詳しくない。銃兎、その組はどういったものなのだ?｣

｢どうもこうも、左馬刻がいる組…火貂組とは昔から敵対している組だ｣

｢随分と詳しいんだな。いや、左馬刻とツルんでる訳だし…知ってて当たり前か?｣

銃兎は額から流れる汗をそのままに、Aを見る。一方の理鶯は、何処か嬉しそうだ。

｢つか、お前はいつまでそうしてんだ?｣

Aの隣に座っている左馬刻は、両手で頭を抱えながら項垂れている。

｢……さっきまでの俺を、無かったことにしたい…｣

舎弟や仲間に情けない姿を見られたこと、極めつけは泣き顔を見られたことが、左馬刻には大きなショックになっていた。

｢それは、俺との関係を無かったことにしたいってことか?｣

｢違う!あ、いや…違います｣

わざわざ敬語に言い直す左馬刻に、理鶯と銃兎は驚いた。
それもそうだろう。彼らが見てきたのは‘ハマの王様’である碧棺左馬刻だ。
こんな風に、言葉遣いを気にして人と接するような者ではない。

｢驚いた…左馬刻、貴方敬語使えたんですね｣

｢あ?｣

｢それほど、特別な存在なのだな｣

｢あ!?｣

顔を赤くする左馬刻。
それを揶揄う銃兎に、天然で追い詰める理鶯。
そのやり取りは、Aには和やかに見えた。

自分に出会う前まで一人でいた子供が、こうして仲間に囲まれ様々な顔を見せている。

｢……良かったな、左馬刻｣

自分自身にしか聞こえない声で、Aは呟いた。

｢……ったく、こっちに来んなら…火貂の爺さんじゃなくて俺のところに来いっつの…バカ犬が｣

それも聞こえないように呟くと、騒いでいる左馬刻の首根っこを引っ張り、無理矢理キスをする。

｢…な、なにっ…｣

｢俺にも構えよ、ばーか｣

明らかに嫉妬を表したその表情に、
この想いを消さずに、諦めずにいて良かった、と左馬刻は心の底から思った。

｢っ…嫌になるほど、構ってやる!｣

そう言って初めて、左馬刻からキスをした。

あとがき→←最終話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す