4話 ページ5
男の部屋は広いとは言えない。
自分たち3人が入ると、狭いと感じるくらいだった。
左馬刻が部屋を見回していると、頭を捕まれ無理矢理向きを変えさせられた。
「おい、ちゃんと見てろって言っただろ」
「っ…すんません」
目の前で行われている光景。
一般的に考えれば恐怖でしかないこれを、左馬刻はまたか…という気持ちで見る。
「チッ…本当に何もねぇな」
「だ、だから……そう言って…」
「あ゙ぁ!?何口答えしてんだテメェ!!」
伊出が顔に1発入れた。
既に何発か食らっている男の顔は、赤く腫れ上がり口の端は切れて血が出ている。
「じゃあ、どうやって金返すんだよ」
鞁島が足で倒れた男の肩を踏む。男は恐怖で震えており、左馬刻は可哀想だなんて思った。
「金は、ら、来月には……必ずっ…」
その言葉を聞いて、左馬刻の隣にいたAが男の側へと移動ししゃがんだ。その光景が、左馬刻にはいつかの日と重なって見えた。
「お前さぁ、それ先月も言ってこれよ?
さすがにもう信じねぇって」
笑っているが、笑っていない。
男は更に震えだし、歯のぶつかる音が響き始めた。
Aは男を立たせると、膝を鳩尾に入れる。
男は痛みに声を上げ、そして咳き込む。
「おい、コイツはダメだ。
臓器なりなんなりバラして金にしろ。あと、妹はシマにある店に働かせて、兄貴の作った金を体で返してもらえ」
「なっ、Aさん、妹さんは関係ないんじゃ…」
「はぁ?アホか。
コイツの体で返せねぇ額は、身内に払ってもらうのが筋ってもんだろ。
そこんとこ、しっかり学んどけ高坊」
行くぞ、と言ってAは部屋から出て行ってしまった。
伊出と鞁島は反抗する男を引き摺りながら連れていく。左馬刻は、少し遅れてから動き出した。
この1ヶ月、あの男の‘本当の姿’を見ているようで見ていなかった。家ではぐうたらしていても、一歩外に出れば確かにヤクザなのだ。
左馬刻は、Aに逆らったらどうなるのかを、見た気がした。
自分も逆らったらバラさせるのだろうか。
自分も逆らったら妹が売られてしまうのだろうか。
あの男だ、確実にするだろう。
逃げられない。拒否権なんて無い。
左馬刻は、あの男の‘犬’なのだから。
とんでもない所に足を踏み入れ、とんでもない所にいる自分。
きっともう、この世界からは抜け出せない。
左馬刻はそう確信した。
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洸牙(プロフ) - はちゃめちゃに最高でした………。設定が神がかってる上に文章も素敵で 、本気で感動しました。左馬刻様が可哀想可愛いすぎて情緒めちゃくちゃです。この2人のその後とかを考えて、勝手に泣きそうになったりしてます。これからの作品も楽しみにしてます! (2022年2月9日 23時) (レス) id: 5f00eb5dfd (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!!!!もう大好き!!他の作品も、見てみようと思います。お疲れ様でした。 (2021年12月21日 1時) (レス) @page45 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
ロト(プロフ) - スマホに変えてて慣れるのに時間かかってたらいつの間にか完結していた…だと…!?完結おめでとうございます!!読む度に語彙力が蒸発するくらい萌えてました。読み終わった今はクラッカーを100回くらいパァンってしたい気分です!! (2020年4月30日 1時) (レス) id: f40d6209a3 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - 亜星可也さん» コメントありがとうございます。無事完結できて良かったです。そしてご心配して下さり、ありがとうございます。亜星可也様も、体調等お気をつけください。 (2020年4月6日 18時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
亜星可也(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!もう本当に左馬刻が尊すぎて最高でした!!最近コロナが本当に危ないので感染しないように十分にお気を付けください!!! (2020年4月6日 18時) (レス) id: 430d859c05 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2020年2月18日 14時