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今日は風が少し強い。
けれど、そんなに寒さを感じない。

「建物が多いのぉ」

「シブヤ、ですからね」

狐は少し寂しそうに、そうか、と呟いた。
なんと声を掛けたらいいのか分からない俺は、握る手に少しだけ力を入れた。

すると、狐も握り返してくる。

とても冷たい手、けれど暖かいそれに自然と口元が緩む。

のんびりと、ただ家の近所を散歩するこの時が最高に幸せだと感じる。

「ふふっ…」

「ん?どうした、急に」

「ぁ、いえ、すみません。
幸せだな〜と思ってたらつい…」

「……お前さん、それはわざとか?」

「え?わざと?」

何がわざとなのだろうか。
俺は分からず、首を傾げた。

「はぁ……素か、恐ろしい奴め…」

狐は空いている手で顔を多い、大きなため息をついた。
心做しか、耳が赤い様な気がする。

その反応を見て、俺は自分の発言の恥ずかしさを知った。

「あ、いやあの!すみません!その、ほ、本当に思ったことが、つい出てしまったというか……んっ」

狐の人差し指で、唇を抑えられた。

「それ以上言うな。余計に恥ずかしいじゃろう」

今度は頬まで赤くする狐。
この狐は、自分がリードする時は平気な癖して、逆は滅法弱いのかもしれない。

なんだか、可愛い。

「む、ふぉめんなはい…?」

「…別に、謝らなくても良い。
それにしても、柔らかい唇じゃのぉ」

「ふぇ?」

今度は人差し指で顎を支え、親指で人の唇をいじり出す狐。

「んっ……ぁ…」

「くくっ…今すぐ吸い付いてやりたくなるのぉ」

「ひぇ!?」

耳元で突然囁かれて、俺は一気に顔が赤くなるのを感じた。

「くっくくくっ……さっきの仕返しじゃよ」

「なっ…仕返しって!俺のしたことと比例してませんよ!」

「仕返しじゃからな〜。倍にして返さんと、な」

余裕な表情の狐。
悔しいが、かっこいいと思ってしまう俺は相当きている。

「………ほんと、敵わない」

自分にしか聞こえない小さな声で、そう呟く。

気を取り直して、散歩を再開するか、と狐が俺の手を引いて再び歩き出した。
先程よりも減った会話は、きっと何処か恥ずかしさが残っているのだろう。

それでも、会話がなくても……。

「帰ったら、洗濯物の続きをしないとな」

「なんじゃ、結局やるのか?
ならば手伝おう」

「いいんですか?それじゃあ、お願いします」

こんなたわい無い会話だけで、充分幸せなのだ。

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ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします!!!!!!ぜひ続きを書いてください! (2023年4月16日 14時) (レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます!体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2020年1月12日 9時

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