12 青い春 (side 重岡) ページ14
｢大毅さま、お時間ですよ｣
｢おん、今いく｣
智洋の声は、朝によう似合う。
送り出されるにもってこいの爽やかさが心地いい。
｢お昼はどうします？｣
｢今日はいいや。昨日の…｣
｢はいはい、出来上がったらすぐに持っていきますね｣
ガラリと母屋の玄関を開き、すぐ隣の書店に続く庭を歩く。
裏口から入っていくと崇裕が開店の準備をしてくれていた。
｢崇裕、ありがとう｣
｢あぁ大毅さま、おはようございます｣
｢うん、おはよう｣
｢向こうに置いてありますからね｣
じゃあ、と店を出て行った崇裕を見送って店の奥にある小上がりへ。
置いてあるという言葉の通り、机の上には俺が智洋に隠れて読んでいた本の数々が堂々といった様子で積み重ねられていた。
本は好きや。
短い寿命の中で感じた事を広く永く伝えるに最良の手段やと俺は思っている。
書き手の空想や実体験、その中身に決まりがないというのが更に良い。
人間の生きた証、と言えるやろうか。
積まれた最上にある表紙に咲く一輪の花に指を沿わせる。
今読んでる物語は人間の青春とやらを書いたものやけど中々面白い。
｢短いからこその感情、なんやろうね｣
誰もいない店に、自分の声がよう響いた。
その声が少し寂しげに聞こえて思わず苦笑い。
俺らには、死という概念がない。
移り変わる時代に合わせて職を変える程度の変化はあるけど、それも露出のある流星や望ら四季だけで、俺や崇裕、智洋はずっとここで本と過ごしている。
客入りの少ない古書店。
それでも退屈しないのは、本に対して愛着を持っているからやろう。
あぁそれから、たまのお客もその一因と言えるかな。
｢…あのう｣
｢いらっしゃい｣
昨日たまたま話を聞いた小さなお客の事が気になって今日も店に立ったけど、正解やったみたいやね。
この店に訪れるほとんどは、なにか心に抱えた者ばかり。
普段店に立っている智洋や崇裕の優しい雰囲気が迷い人を惹くんかな。
店の外から分かるはずないし、何かそういったチカラがあるのは確かやろう。
｢また来てまいました｣
｢ええよぉ。見ての通り、うちはいつでも暇やから…て、あれ…学校は？｣
昨日聞いたとき、彼は高校生やといっていたような。
｢学校ですか？もう終わりましたけど…｣
｢えぇ？｣
驚いて彼の来た方を見ると、今の今まで朝日をこぼしていた窓が夕日を孕んでいる。
青春に二度三度と浸っているうちに随分と経っていたらしい。
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杏子(プロフ) - ebifuraistar73さん» コメントありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです！また少し待たせてしまうかもしれませんが、ゆっくり更新していきますのでこれからもよろしくお願いします！ (2018年3月13日 14時) (
レス) id: f0bc5c27fe (このIDを非表示/違反報告)
ebifuraistar73(プロフ) - 待ってました！公開する季節、ぴったりですね。ありがとうございます。 (2018年3月13日 6時) (レス) id: 747d322e1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杏子 | 作成日時：2017年9月6日 19時
