・一心 ページ10
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最初は特に何も感じていなかったが、この時間帯の海はいつ来ても悪くないと感じるようになった
暑さが少し残る空気を消すような海風。
「……大好物…か。」
たった10日ぶりの城下町は相変わらずであった
酷く煩いほどの賑やかさと騒がしさ。
憎い程だが、少し懐かしさと安心さを感じた。
「…おっと、私は仕事に戻らないとな。」
「随分と休みを謳歌しているようだな
お前のクマの跡が少し減っているのが、証拠だな。」
そう口にしては颯爽とお店を後にする彼に
背を向けるように城下町を後にした。
少しぐらい羽目を外しては楽しむのもありだとは考えたが、今日はやめておこうと。
共に城下町を練り歩きたいと思う人物が
今日は隣におらんからな。
『この時間帯の海、特等席だよね。』
『書記長さんも魅力に気付いてしまったかな？』
相変わらず彼女の気配を感じる事はできなかったが。
勢いよく隣に立っては、自分の持っているケーキの箱を見て嬉しそうにしているのを見ると…
__何故やろうな。
『ありがとうー！このショートケーキが1番大好きなんだよね！』
「嬉しいのはわかったから。聞こえとるからもう少しボリューム落とせや。」
何か特別な力でも彼女は持っとるんやろか。
何故だか、彼女から伝染してしまうように
嬉しいという気持ちが乗り移るんよな。
「…はよ座って食べるで、ケーキの持ちはあまり良くないからな。」
『一仕事終えた後の甘いものはご褒美…だか……らっ、』
それは、唐突で。
特別に強い風が吹いたわけでもなかった。
彼女は砂浜に足下を持って行かれたように身体が不自然に揺れ始め倒れていく彼女。
「……っ！Aッ！！！」
そう叫んでは、手に持っていたケーキの箱を投げ捨て
倒れそうになる彼女を支える他なかった。
『っ…ごめんごめん！！』
『もう凄く忙しくて今日何も食べてなくてさ…！！』
今すぐにでも慌てて離れる彼女を心配したかった。
怪我はないか、ケーキよりも夕食を早く食べて体力を回復させようと。
__そうだ、落ち着け自分
先に砂浜に腰を下ろした自分の顔に彼女の心臓部が当たるように倒れ込んだけだ。
人は驚いた時に心臓が止まったかと思ったとよく言う。
あぁそうだ、俺は
きっと難聴にでもなったのだろう。
だから、彼女の…
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脈や心臓の音を
一切聞くことができなかったんだと
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