卅漆の巻 ページ48
・
「わたる・・・。」
「貴方は健やかに育つのよ・・・。」
この声は、誰だ？？
優しいがどこか悲しそうで、儚く、今にも消えてしまいそうなこの声の主はいったい。いつまでも聞いていたいように思えて目を強くつぶるが、不思議なことに次の瞬間には自然と目が空いていた。
「渉様・・・？？」
目の前には心配そうなAがいた。昨晩、俺が俺の意思で自分の部屋に呼びつけ、盃を交わした。そのまま俺はどうやら寝入ってしまったようで、Aもここで寝てしまったらしい。辺りを見渡すとどう考えても俺の部屋。手や足、体を見ても青年になった俺のものだった。
あぁ、どうやら俺は夢を見ていたようだ。どこか懐かしく、そして悲しい夢を＿＿＿＿＿＿
「帰ってなかったのか、」
「あぁ、はい。帰ろうかと思ったんですけど、渉様が辛そうなお顔で唸っていらしたので・・・横に布団を用意させていただき、そこで寝ました。」
横を見ると綺麗に敷かれた布団があった。
なるほど、心配してくれたのか。この俺の身を案じて。心配されるほどそう弱くはないのだが、たまにはこういうのも気持ちいい。
「朝餉のお時間ですよ、先ほど志麻様が呼びに来られました。」
「あぁ、今行く。」
それにしても、あの夢。どこかしらで見覚えがある。幼き頃の思い出なのだろうか、はたまた俺の幻想であり妄想なのか・・・真相は定かではない。
最近よく夢を見る。現実に引き戻された感覚に陥って、なかなか眠れない時もある。こういうのはとても厄介で、俺は酒に弱いが、こうなっては仕方ないので酒を少量飲んでから寝るようにしている。
「渉様。」
「なんだ？いいぞ、朝餉に行って。みんな待ってるだろうしな。」
「あ、はい・・・。」
そういって少しためらった後、口を真一文字に結んで俺の部屋を出て行ってしまった。
何を言いかけたのだろう。だが、俺の勘。これはなんとなく聞いちゃいけない気がする。こういうときの勘はよく当たるものだ。世の中には知らない方がいい事もある。それは幼少期に学んだ。
それとも俺は、なにかを悟られてしまうのが怖いのか・・・・？
いいや、と首を横に振る。とにかく今日も武芸だ。朝餉が終わったら朝稽古だ。武芸を怠らないと約束したではないか。
あの約束は守らなくてはいけない。これは何があっても、絶対、だ。
俺は誰よりも強くならなくては・・・。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 136人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イチゴミルクキャンディ@サブ垢(プロフ) - PE@みたらし団子バカさん» わー！ありがとうございます！更新頑張ります！ (2019年8月18日 19時) (
レス) id: e98fc17c66 (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - 更新頑張ってください！ (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - これは私の好きな種類の話だ！ (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
いまりちゃん - もでらーと。さん» ありがとうございます！！（パソコンから返信しています。）そしてそしてもでらーと。様は様々な小説を書いていらっしゃるのですね！お星さまが坂田さん色で憧れます（笑）更新頑張ります！ (2019年8月3日 22時) (レス) id: 42f8b00619 (このIDを非表示/違反報告)
もでらーと。(プロフ) - おもしろいです…！私、歴女&crewなので超嬉しい組み合わせです！更新楽しみに待ってます！ (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5d5b1bd419 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イチゴミルクキャンディ | 作者ホームページ：プロ野球
作成日時：2019年7月20日 20時
