念玖の巻 ページ36
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この空気は、嫌いじゃない_____と俺は深く深呼吸をした。
幼少のころから家康様に見初められて育ってきた。この間には何回も入ったことがあるが、こんな空気になったのは片手で数えられるくらいだろうか。
襖の奥にはAがいて、きっと俺の家臣と共に緊張しながら出番を待っているのだろう。
俺はふっと微笑み、家康様に一通りの説明をした。
「失礼します。」
「入れ、」
顔がこわばり、美しく引かれた紅色の線が歪む。折角の顔が勿体ないぞ、と心の中で問いかけるがそんなのも気にも留めていないようだ。
反対に言えば気づけていないほど緊張しているのか。全国の武士が願っても叶わないほどの貴重さだからしょうがないのだろうか。坂田でさえ何回かあっているのに未だに緊張しているしな。
「吉原の遊女か・・・。」
「ええ、そうでございます。家康様と吉原にご一緒させていただいた時に出会いました。」
吉原の遊女で何が悪い、と少しむっとしたがすぐに気持ちを切り替える。昔から俺はそういうことがあった。だから落ち込むことは少なかったが、せっかちな性格が改善されることもなかった。
張り詰めた空気が重くのしかかる。嫌いではない。むしろ逆境の方が燃えるってやつだ。そう思うことができるのは幼少のころから戦で鍛えられていたなのだろうか。
とにかく今は家康様のお言葉が聞きたい。それは横にいるAも一緒だと思う。
「ご尊顔を拝し、誠に光栄でございます。この度吉原遊郭から参りました、津々楽和歌と申します。これからは吉原遊郭を離れ、浦田家にお世話になろうと考えております。」
固いな、と思ったが初々しい。旗本になったばかりの大名も確かそんな感じだったような。どちらにせよ、俺には一生分かりえないことだ。
しばらくたってから家康様はふっと笑った。
「もっと絢爛豪華な遊女かと思ったのじゃがな。」
「え?」
「遊女らしからぬ遊女じゃ・・・。着飾ることを知らない禿のような。」
俺らしい、とでも言いたいのか。このじじい。それと同時になんか納得してしまった。飛んだり、跳ねたり。まるで子供のような忙しい性格だ。
流石天下人。人を見る目だけはあるのだな______と皮肉たっぷりに家康様を見つめ返した。
「渉殿らしい。名を和歌といったな?津々楽という大名は知らぬが・・・・浦田家で生活することを許可しよう。」
「本当でございますか。有難うございます。」
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イチゴミルクキャンディ@サブ垢(プロフ) - PE@みたらし団子バカさん» わー!ありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月18日 19時) (レス) id: e98fc17c66 (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - 更新頑張ってください! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - これは私の好きな種類の話だ! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
いまりちゃん - もでらーと。さん» ありがとうございます!!(パソコンから返信しています。)そしてそしてもでらーと。様は様々な小説を書いていらっしゃるのですね!お星さまが坂田さん色で憧れます(笑)更新頑張ります! (2019年8月3日 22時) (レス) id: 42f8b00619 (このIDを非表示/違反報告)
もでらーと。(プロフ) - おもしろいです…!私、歴女&crewなので超嬉しい組み合わせです!更新楽しみに待ってます! (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5d5b1bd419 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イチゴミルクキャンディ | 作者ホームページ:プロ野球
作成日時:2019年7月20日 20時