未題 (ページ10)

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55『ん？呼んでへんけど』

……Aに、嘘をつかれた。

まあ、そんな気はしてたけど。

飲み物でも買って戻ろうとしてたとき、

Aの声が聞こえた。

「今、とっても幸せだよ。わたし」

19『……Aさん』

「……でも、…正しく幸せになりたい、かな」

"正しく幸せになりたい"

その言葉が、俺の中に重くのしかかる。

この状況を1番望んでるのは、Aじゃない。きっと俺だ。

ドアを開けた向こう側に、Aがいる。

でも、信じられへんくらい、遠く感じる。

2人の会話を盗み聞きするなんて、と思っても、俺の耳は自然と向こうの部屋に集中していた。

「……ねえ、泰輔」

19『はい』

「わたしね、………やめたいんだ、もう」

19『ｯ、……それは、』

「泰輔に正しい幸せはすぐそこって言われた今の今まで、全部やめてしまいたいって、思ってたけどね。

……泰輔が真っ直ぐに伝えてくれたから、わたしも隠さず言おうと思うんだけど、…いいかな？」

19『もちろんです』

「ありがとう、泰輔。

わたしね、……オリックスから離れようかな、って」

19『えっ、あ、え？ちょ、、待ってくださいよ』

……一語一句、同じ言葉が出そうになった。

Aが、オリックスから離れる……？

「最初はトレーナー自体やめてしまおうかって思ってたんだけどね、ありがたいことに色んな球団の方から声をかけていただいてて。

次のシーズンからとは言わず、来たいときに来ていいよ！なんて言ってもらったり……まあさすがにそれは冗談かもしれないけどね。

……トレーナーのお仕事、すごく好きだからさ、それもありかなあ、って」

……そんな話、俺は聞いてないよ、A。

なんで俺に……話してくれなかった？なあ、なんで。

俺はAに……真っ直ぐ伝えられてなかったのか？

19『……こんなこと聞いていいのか分からないんですけど』

「ん？」

19『本当は、オリックスから離れたいんやなくて、……その、……』

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" 安達さんから離れたいってことやないんですか？ "