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先輩が美術室のドアを開けると、湿った空気と画材の匂いが流れ込む。
中に入ってドアを閉める。
外は土砂降りで、静かな部屋に雨のこもった音と、2人のローファーの音が響いている。
｢今日は水曜だから〜美術室は1.2限目は使われないの｣
そういって、美術室の更に隣にある美術準備室の鍵をあけた。
私は、一応先輩に拉致されたのでHRは行けないという旨のLINEを絢音に送った。
すぐ既読が付いて、
«笑笑»
«何その先輩»
«今度会わせなさいよ»
«前話してた中学同じの人でしょ？？»
と連投が来たので、
«そうだよ»
とだけ返した。
｢…先輩実はたまにサボってますよね｣
｢バレちゃった？｣
イタズラがバレたような小僧の顔。
ほら来い来いと先輩が手招きするので、準備室に入る。
｢…うわ、ここって先生の準備室でしょ？｣
ソファとデスクが置いてあって、何個かマグカップが置いてあった。
｢そうだよ、たまに俺も使ってるけど｣
バフっとソファに倒れ込む先輩。
金髪がふわりと顔にかかって、綺麗に光っている。考える前にその髪に触れて、掻き分けた。
中学の時とは、少し違う雰囲気。
アーモンド型の目が、じっと私を見つめ抜いた。
｢あいつからの連絡はもう来なくなったわけ｣
あいつ。
京本先輩の発するあいつという言葉は、私の心臓をいつも冷やした。
｢もう来てません。｣
｢ふーん、よかったじゃん｣
京本先輩の言うあいつ。
中学の頃の元担任、桜木先生。
最初は少しの違和感だった。
私が友達も少ないせいか、よく気遣ってくれるな、程度だった。
｢おいA、職員室までこれ運んできて｣
放課後やけに私だけに仕事を手伝わせるな、とか。
｢A〜何が面白くてさっきから外ばっか見てんだ〜｣
授業中よく私の方を見てるな、とか。
誰にでもあるかもしれないちょっとした勘違い。気のせい。
それで片付けようとしていた。
｢A｣
放課後、人より少し残って勉強したり本を読んだりするのが好きだった。
1人残るのは危ないから、という謎の理由で先生も同じ教室にたまに残った。
私は1人の時間が壊されたようで、妙に居心地が悪かった。いつも通り残ってたけど、先生が教室に来たら片付けて帰るようになった。
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作者名：春野 | 作成日時：2021年12月10日 21時
