図書委員の松村くん (ページ24)

今日:6 hit、昨日:12 hit、合計:133,368 hit

24 ページ24

｢好きです…付き合ってください｣

目の前の女の子は、今にも消え入りそうな声でそう言った。

申し訳ないな、なんて思いながらも俺はごめん、と呟く。

下を向いたまま顔をあげないその子は、下唇を噛み締めている。そんなに強く噛むと跡がつくだろうに。

｢…好きな人、いるの？｣

｢…いや、俺興味無い人とは付き合えないから｣

そう言うと女の子は何も言わずに走り去っていった。

俺の何を知っているんだろう、と思ってしまうのはひねくれ過ぎなのだろうか。
好きでもない人に、変に可能性を持たせたまま付き合う方が、正直ことよりよっぽど失礼だと思う。

けれど、さっきの女の子の顔を見る限りそうでも無いみたいだ。

｢はぁ｣

入学して2ヶ月は経つ。
たった2ヶ月なのに、人を好きになれるなんて。

樹は、「人を好きになるなんていちいちドラマチックなものじゃない」と言っていた。

そんなことを思いながら、頭には何故かAさんが過ぎった。

もし、もし今の女の子がAさんだったら。

Aさんは、中学の時に好きな人はいたのだろうか。いたとしたら、それはどんな人なんだろう。あの人はどんな人を好きになるんだろう。

彼女の冷たいようで柔らかい目線が、知らない誰かを見つめている所を想像する。

｢……俺何考えてんだ…｣

何となくAさんに罪悪感のような気まずさのような感情が湧いて、それをかき消すように頭を振った。