図書委員の松村くん (ページ2)

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一ヶ月前

「えっと…Aです。」

「…うん、知ってます」

「あー、だよね。」

「松村北斗です」

「…知ってます」

「だよね、同じクラスだしね」

委員会初日。

取り敢えず自己紹介をしてみるも、こんな感じ。

同じクラスの中でも目を引く、独特な雰囲気を醸し出していた人。

背も高くて、無表情のことが多くて、ちょっと怖い松村くん。黒くてさらさらな髪は少し長くて、目元をほんのちょっとだけ覆い隠していた。

「Aさんはなんで図書委員に？」

「…読書好きだし、毎日図書室通うなら委員会入っちゃえみたいな」

｢ふーん｣

そんな面接官みたいな、と思いながら答える。
聞いた割にはあまり興味はなさそうで、その場を凌ぐための形だけの会話だという事はすぐ分かった。

「…松村くんは？」

私もとりあえず聞き返す。

「まったく一緒。よかった、サボりそうな人ではないね。」

「まぁサボリはしない、です」

じゃ、これからよろしく。といいながらメガネを掛けて本を取り出す松村くん。

本を開いたらもう話は終わり。話しかけるなというような雰囲気が、逆に心地よく感じた。

あまり多くの人が来ない図書室だから、そんなに忙しなく働く必要もなく、ゆっくり読書できる。

私もなにか読もうかな。

チラッと松村くんの読んでいる本の表紙を見てみる。

「……珍し」

「何が？」

怪訝な顔をする松村くん。

やば、声に出てた。

「いや、江國香織読んでる男の人、珍しいなーって」

そういえば久しぶりに男の人と話したかも。手に汗をかいてる。

結構心臓もバクバクうるさい。

松村くんが読んでるのは江國香織の、『思いわずらうことなく愉しく生きよ』。女三兄弟の生々しい恋模様を描いた作品。

「あぁ。そう？確かに周りにはいないよね。好きなんだよ、この人の文体」

「…ふふ」

「何笑ってるの」

結構ドン引いた目をしてる。

「私も好きなんだよね。その本」

ちょっと自分と全く同じ意見を持ってることが嬉しくて笑が零れる。

「そうなんだ」

そんな私を見て、松村くんは軽く笑った後また本に目を移した。

という感じで、意外と本の虫同士で意気投合はしてると思う。

松村くんは不思議とこわくない。