図書委員の松村くん (ページ1)

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雨の篭った音が室内に響く。雨の日のジリジリと湿気が忍び寄ってくるこの感じ。

何故か今日は嫌いではなかった。

「…」

「聞いてる？Aさん」

窓から目を話すと同じ当番の男の子が機嫌悪そうにこちらを見ていた。

「あ、聞いてなかった」

「だから、この貸出欄ちょっとおかしくないって話」

骨張った形の良い手が、マウスを握った反対の手で無意識にハードカバー本の裏表紙を撫でる。私はそれから目が離せなかった。

「あー…これか。たしか先輩が付け間違えたとか言ってたよ。」

「マジ？」

直すのめんどくさ…と呟きながらパソコンを弄る松村くん。
放課後の図書委員は今日も私たちだけ。なんなら生徒も今日は居ない。

「あ、この本入ってたんだ」

「どれ？」

「村上春樹の新作。」

「あれか。俺もう読んだよ」

「え、早くない？」

「面白かったよ。それ、借りたら？」

「今谷崎読んでるんだよね〜…」

「谷崎潤一郎？なんでまた」

「この前松村くん読んでたじゃん、春琴抄」

「影響を受けたと」

「そういえば読んだことなかったなーって」

「じゃあ何読んでるか当ててあげる……痴人の愛」

「…正解」

「最初は有名どころだろうなと思って」

他愛のない会話をしながら、淡々と本の整理をしていく。

「ていうか、なんでこんな位置がバラバラな訳よ」

本棚は作者のあいうえお順に並べてあるが、結構バラバラ。無理やり本の上に押し込んである文庫本を取り出しながら松村くんは深いため息をついた。

「…明日HRの時にでも言う？」

「俺は嫌だ。」

「私も嫌だ」

数十秒睨み合って、結局「…やめようか」となった。それなら私達が細々と乱れた本棚をお直しする方が気が楽だ。