もしもの世界のおはなし【BANANA FISH】

GOT SALVATION【ASH】＊2018.12.03 ページ8

【ヴァンパイアなアッシュと主のお話】


――ハァハァ…


降りしきる雨が頬を打つ。月明かりもなく視界は最悪、泥濘みに足を取られなかなか思うように動けない。既に衣服は泥と雨の水気を吸って重たくなり体に張り付いた上に徐々に体温を奪っていった。
それでも少女は進んだ。進むしかなかったーー



少女の名前はユウナ。
小さな村の長の家系に生まれ育った。
当時長を務めて叔父と少し気の弱い父、村で一番の麗人であった母と4人で暮らしていたがユウナが5歳になった三年前に祖父と母が立て続けに流行病で亡くなってしまった。
父は酷く傷心したが、その傷を癒す間も無く祖父が務めていた長の任に就く事となった。
ユウナも悲しみに暮れる日々だったが亡き母が亡くなる前に言った言葉を胸に、懸命に父を支えようと気丈に振る舞った。


「お父様を支えてあげて…貴女も、幸せになるのよ…ユウナ」


大切なものを失っても尚、それでも彼女は自分は幸せ者なのだと心から思っていた。
愛し合う両親の元で愛情を注がれて育ち、祖父と母が亡くなっても気に掛けてくれ手を差し伸べてくれる村の皆がいるーー
全てを失ったわけでは無いし、自分が今ここで生きている事には何か意味があるのだと、ユウナはそう思っていた…



「ユウナ、この方が新しいお母様になるお人だ。徐々にでいい、新たな家族を築いていこうね」



ある日父が連れてきたのは、若く母にも劣らぬ美しい女性だった。
優しげに微笑むその人が、今日から自分の継母となる。物分かりがいいと言ってもまだ幼いユウナには「大好きだった母を忘れなければならない」と言われてしまった気がして、夜な夜なベッドの中で涙を流す事もあった。
しかし、父の決めた事。これで皆が幸せになれるのならと、その涙を人に見せる事は決してしなかった。



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