先生と生徒

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「体の調子は、悪くなかった、ということですか。」
私は瞬きをした。先生の顔が私が落とした視線の先にあった。わざわざしゃがみ込んで目を合わせにきたのだ。私は立ち上がりかけた腰を下ろすしかなかった。先生の顔がいつも通りの落ち着いた表情で、媚びるようでも求めるようでもないから、私は一気に先生の意図が読めなくなった。困惑する私に先生は続けた。
「体の疲れを無視して行動しようとすると心が体を置いていって体調不良を起こすことがあるように、体が心を置いていってしまうこともあります。体に不調が出ないから、人からも、そして自分でも気づきにくい。けれどそれは風邪をひいているのと同じ。それに適したケア、治療が必要です。そして、どちらが不調でも、精一杯勉強することはできませんね。」
自分でもわかる。いま自分のつくっていた笑顔が、もう笑顔になっていないことに。私は激しく瞬きを繰り返し、次の答え方を探した。先生の表情はいま、ある一つの色に染まって、私に降り注いでいるようだった。心からそうしたいと思っているかどうかはさておいても、いま先生は、私に話すことを促しているのじゃなかろうか。時間もあんまりないだろうに、こんな大勢いる生徒の中でとくに目立ちもしない私なんかの、明らかに話したってしょうがないような不毛な悩みについて。いや、でもまあ、違うだろう、そして、もしそうだったとしても、本当にこれは誰かに話してどうのというものではない。それに、そもそも先生もただ教訓を言っただけだ、そうとも取れる。というかそれが自然だ、あくまで先生なのだから。

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