友だち ページ48
私たちは何も変わらない。それがどんなに尊いことか、きっとごみ溜めで生きていた頃の私は理解を示さずに捨ててしまっていただろう。そしてそのことがどれだけ愚かなことであったかを、湊くんは教えてくれた。
そうであって欲しいと、私は何十年でも願い続けるのだ。
「おかえり」
「……まゆくん？」
「どーも。元気にしてた？」
「うん。とっても」
うさぎちゃんと映画を見た帰り道。湊くんと住むマンションの目の前で、私たちは実に数ヶ月ぶりの再会を果たした。私の返事に少しだけ目を丸め、そしてじわじわと眼光を細めるまゆくんは、なんだか雰囲気が幾許か柔らかくなっている気がした。
「まゆくんは？」
「まぁまぁかな。大変な時期は終わったし、今から元気になるところ」
「へぇ。ハッカーって大変」
「不破くんの嫁を務めるのと比べたら全然だよ」
「嫁じゃない」
「でも、このままいけばそうでしょ」
私はたちまちに黙ってしまった。まゆくんはまたそれに笑って、私と距離を縮める。手を伸ばせばすぐそこにまゆくんはいた。
「不破湊の嫁って肩書き、なんか強そうだね」
「……私にできるかなぁ。もしさ、子どもとかできちゃっても、私たぶん育てらんないのに」
「できるよ」
「まゆくはそう言うと思った。でも、あはは。私普通じゃないから、子どもまで普通じゃなくなったら可哀想だよ」
「そうかな」
「そうだよ」
でもさ、とまゆくんは言葉を繋いだ。
「俺からしてみればAはずっと、普通の女の子だったよ」
「……うそ。絶対そんなことない」
「じゃあ、不破くんがAを普通の女の子にしてくれたんだ」
私の頭をまゆくんが撫でた。ぽんぽん叩くように、そして毛先まで手のひらを滑らせる。私はそれの虜になってしまって、そしてすぐさま脳が警報をならした。これはダメだって、私はまゆくんの手を捕まえた。
「もう帰らなきゃ」
「そっか」
「また今度、ご飯でも行こう」
「いや、いい」
「え」
「俺は外から見守ってるくらいが丁度いいから」
「どうしたらそばにいてくれる？」
「そばにはいるよ。ずっと、Aの幸せを願ってる。……じゃ、そろそろ。ばいばいA。不破くんによろしくね」
って、まゆくんは瞬く間に消えてしまった。でもそれが彼らしくて、私はくるりと背を向けてマンションに入った。どうせ一生会えないわけじゃない。猫のようにまた、私の目の前に現れてくれる。何年後でも、私たちは変わらないから。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
