触れぬ心 ページ5
私の家は、いつもお母さんと私の二人だった。お母さんはいつもお父さんの帰りを待っていて、たまにふらりと立ち寄って、顔を見せにくるのが私のお父さんだった。束になったお札と、お母さんへのお土産で綺麗な宝石。幼い私には読めない言葉のお菓子を持ってきてくれた。大きくなればアクセサリーとかデパコスとか、私には簡単に手が届かない物をくれる。そんな羽振りの良いお父さんの仕事が、世間で認められてないものとは知っていた。でも、それは私じゃどうにもならないことだから、何も知らない馬鹿のふりして、お父さんの機嫌をとる。ははは、って笑って撫でてくれる手は、きっと私以外の娘にも同じことをしていた。
今日も身に付けているのはお父さんがくれたアクセサリーで、きっと私よりも価値が重い。少し前の食事会でよく似合うなぁってお父さんが褒めてくれて、それにお母さんは少しだけ嫌そうな顔をする。三人でご飯を食べた記憶が蘇ると、私はいつも自分の居場所の無さを痛感するのだ。お父さんを繋ぎ止める為には私が必要だったけど、自分が好きなお父さんが私を可愛がるのを、お母さんは気に食わないみたいだ。普通の親子みたいなやり取りは、お父さんがいない日にしかできなかった。お母さんも元は女だったから、お父さんの前では、お母さんは親であることを捨てた女だった。その愛を横取りする私はさながら泥棒猫だったろう。
私たち家族の絆が形は歪であることを、認めてしまえば後は楽だった。だから私と湊くんの関係も、そんなものと認めれば、後は楽になるばかりだった。
｢Aちゃんもう食べんの？｣
｢お腹いっぱい！ふは、私は湊くんみたいには食べられないから、代わりに湊くんがたくさん食べてね｣
｢任せろ。てかAちゃんそのネックレスいいね。初めて見た｣
｢初めて見せたもん｣
｢そりゃそうだ。自分へのご褒美とか？｣
｢ううん、プレゼント。お父さんがくれたんだ｣
｢へぇ！いいねぇ｣
わざとらしいくらいのリアクションに、私はまた笑ってしまう。お父さんが何してるか知りたいもんね、ふふ。わかりやすい。私は“人質“だから、偶にこうして無害であることをアピールしなきゃ。お父さんの仕事は何も知りません。湊くんの仕事も、目的も、愛想笑いの奥の感情も何も、分かりません。それを飽きるほど復唱して生きてきたもんで、もうすでに、それだけは私の本当になりつつある。嘘が誠に変わる瞬間って案外呆気なくて感動もくそもなかった。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
