不変など ページ36
私はまゆくんを見つめ、ゆっくり頷く。だって私の人生にもうお父さんは必要じゃなかったから。まゆくんはふぅんと私を見下ろして、偉いねと微笑んだ。
｢最初から、こうしていればよかった｣
｢え？｣
｢もっと早かったら、たぶんAは俺のこと好きになってたでしょ。マ、それはどっちでもいいか｣
まゆくんの手が私に伸びる。目で追っているとそれは私の頭頂部に降り立ち、髪の流れに沿って動いた。撫でられている、と分かるとどうにもむず痒くなってしまい、私はじっと彼の手が離れるのを待った。けれど予想に反して、まゆくんは撫でる手を止めない。とうとう我慢できなくなって、私は彼の手を掴んだ。
｢さすがに長いよ｣
｢そう？｣
｢うん。……まゆくんの用はもう済んだ？｣
｢まだ｣
｢まだかぁ。なら、この続きはうちでしてよ。まゆくんも寒いでしょ？お茶でも飲んでって｣
｢俺家に入れていいの？不破くんと付き合ってるんでしょ｣
｢あ、そっか。じゃあ……この近くのファミレス行こうよ。まだ開いてるだろうし｣
｢だね｣
掴んだまゆくんの手をそのまま引いて、私は歩みを再開させた。途中で自然と手を繋いでいることに気づいたけど、それもどうでも良い気がしてそのままにした。きっともう私がどこで何してようが、湊くんは気にも留めてくれない。
でも、好きなんだよなぁ。よかったと心底思える。だって私はまだ、損得勘定を抜きにして人を愛していられた。俯きがちになる視線は、私がまだ湊くんを好きという証明をしている。あは、私って。こんなことでしか安心できないんだ。
マンションのエントランスを抜けると、まゆくんが｢あ、｣と何か思い出したような声をあげた。こっちだよと引っ張った腕が突っ張る。
｢ファミレス、やっぱり止めよ｣
｢え、なんで？｣
｢……なんとなく｣
｢えー？まゆくん嘘ついてるでしょ｣
｢ついてるよ｣
｢わ、正直。……ならもう私の家しかないけど、いい？まぁ実際まゆくんが家にいたって、私と湊くんはどうにもならないよ。だって湊くん、私のこと好きじゃないし｣
｢…………そういうこと、平気で言えるようになったんだ｣
それに、私はキョトンとしてしまった。まゆくんは繋がる手を強く握り返す。今度は彼が私の手を引いた。
｢やっぱり、俺の選択は間違いだった｣
｢間違い？｣
｢……少なくとも、俺と一緒にいればAはあんなこと言わなかったよ｣
今日のまゆくんはなんだか変だった。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
