悪癖 ページ34
私に手を差し伸べてくれた時から、湊くんはずっと私の王子様だった。普通じゃない私に、普通の女の子みたいな幸福を与えてくれる。好きな人と出かけて、笑って、理由もないのに寄り添い合う。だから都合のいい女とか人質とか、そんな都合の悪いことを忘れてしまう日があって。そんな時は大体、ハンマーで頭を殴られるような衝撃で、湊くんは私をごみ溜に引き戻してくれる。
あの日もきっとそれだった。でも今回は規模が違って、ハンマーなんか生易しく感じるほどの衝撃は、私のぐちゃぐちゃに曲がった人生諸共、全てを木っ端微塵にしてしまうような、そんな。
これが終わりの合図だって、彼の背中を見てそう思った。
｢A、お父さんと外に行かないか？一人じゃ寂しいだろう？｣
その日は珍しくお父さんに呼び出されて、お高いレストランで向かい合っていた。一通りの近況報告が終わり、やけに弾んだ声のお父さんが私にそう言う。私は、有り得ないと思った。
｢……そと？｣
｢アメリカでもイギリスでもAの好きなところに行こう。昔、行きたいって話してただろ？｣
｢行きたいって｣
それを話したのはお母さんだよ。目の前の父親は至極嬉しそうだった。まるで私が拒否するなんて想定もしていないし、着いていくのが当たり前だみたいな、そんな雰囲気がある。どうやら数いる娘の中で、お父さんは私を選んだらしい。…………誰かの特別になれた。それは嬉しいことのはずなのに、一切心が弾まない。頷く気にもなれない。馬鹿な私でも分かる。その安っぽい顔に付いた口からまろびでる、その見え透いた本音。
寂しいって、それはお父さんの方じゃないの？
｢まぁ、いつでも連絡してきなさい。仕事はすぐには辞められないしなぁ｣
やがて食事も終わり、話も曖昧な返事で終わらせてしまった。お父さんはそんな私を勝手な解釈で完結させたらしく、お父さんはタクシーに乗り込む私にそんなことを言う。馬鹿だな。私が頷かないのはそんな理由じゃないよ。だって私はお父さんが好きなわけじゃない。お母さんがお父さんを好きだから、優しくしてたの。
貴方とお母さんが同じ気持ちになれば、私は喉から手が出るほどほしがった普通が手に入るから。……でももう、絶対にそれは叶わない。だから私はあの人に着いていく理由がない。
お母さんじゃなくて私が死んでいればなぁ。何か変わったかもしれないと、私は考えるのを止められなかった。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
