浮つく心 ページ33
みなとくん。上から降った声にそう返事をすれば、彼は思うよりずっと焦った顔をしていた。
｢立ち上がれる？膝痛いよなぁ、あ。手は？痛いとこどこ？ぜんぶ教えて｣
｢……大丈夫だよ。びっくりして、大袈裟に転んじゃっただけ。それより＿＿＿＿｣
｢ん？座れるとこまで運ぶから俺に掴まって｣
私が反応する前に、彼は軽々私を抱き上げた。こんな道の真ん中でそんな目立つことをすれば、当然人の目は集まっていくのに、湊くんはそんなこと気にしていないようだった。彼の首に回された私の腕には傷一つないし、当然擦りむくほどの衝撃もなかったから膝だって無事だ。こんなことしてもらうほどの事なんて何ひとつないのに。
彼の体温がずっと近くて、心臓が痛い。幸せの痛みだった。程なくして開けた場所に設置されたベンチに下ろされる。湊くんは私の足元に跪いた。
｢怪我は……パッと見ないか。捻ってもない？……うん、よかった｣
｢ありがとう｣
｢ん。まぁ怪我してないからまだええけどあのおっさんはガチで許せんから、見つけたら俺直々にぶっ飛ばしておくな〜｣
｢ふは。いいよ、別に。もとあと言えば真ん中で立ち止まってた私が悪いし、人殴ったら湊くんも痛いよ｣
｢そんなん俺とAちゃんがスッキリしたらお釣りでるって｣
｢でないよ。プラマイ、マイナス｣
｢……Aちゃんは優しいよなぁ｣
｢あはは。絶対ないよ｣
｢なら不破湊が褒めてあげな。ええ子ええ子、Aちゃんは可愛くてええ子やなぁ｣
わしゃわしゃと遠慮なしに彼の大きな両手が私の髪の毛を撫でた。私はこんな風に撫でられたことなんてないから、くすぐったくて、それから逃げようとしてしまう。それを彼の手が引き寄せ、あっという間に私の鼻先が彼の胸に埋まった。香水の匂い。湊くんの香りだ。
｢うさぎちゃんとは解散したん？｣
｢うん。さっき｣
｢じゃあ今からはフリーってこと？｣
｢うん｣
｢そっか。実は、俺もフリーなんよね｣
湊くんが笑う。私は目を瞬かせる。……それって、と声を出す前に湊くんは立ち上がった。
｢一人にしたないから、俺とおいで｣
Aちゃん。弾んだ声。さっき浮かれていた私みたい。……でも、私じゃこんなにも幸せそうな雰囲気は出せないなぁ。
差し伸べられた手をとると、グイと引き上げられる。どうしよう、と思った。ずっと、私は一人で死ぬものだと思っていたのに。馬鹿な私は、この人と死にたいって、そう思ってしまったのだ。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
