無理なおはなし ページ18
私は何も知らない。湊くんのアイコンも、私服も、好きな食べ物も好きな音楽、趣味、住んでいる部屋。私はぜんぶ彼に見せたのに、私が見ている湊くんはせんぶ黒い霧で覆い隠してしまって、振り払って見ようとしても、きっとそれは無駄なことだ。
無駄なことで、なければならなかった。私がゆっくり死へ向かって行くために必要なことだったのに、なぁ。
｢このスリッパお客さん用で、俺ん家あんま客来んからたぶん綺麗やけど……やっぱ新品の方が、あ、気にしてない？｣
声から滲む緊張を打ち消そうとしているのか、湊くんは普段通りに振舞った。私は物珍しさに視線を右へ左へ、そして結局行き着くは湊くん。この場所に溶け込み馴染む姿は、さすがこの家の主だ。でも状況が状況だから、私は見惚れることもなく視線を逸らした。
湊くんは手持ち無沙汰になった途端私の右手を拘束し、部屋の奥へ案内する。人の家に上がり込むのはお母さんの時以来で、私の心臓は変に蠢いた。あの時も今も、奥に何が広がっているか予想がつかない。信じていた表面上の平穏な景色が、赤に塗り潰されていく。
｢Aちゃん？……お茶持ってくるからソファにでも適当に座ってくつろいどって。確か紅茶好きだったよね｣
広がったのは、赤なんて一つもないリビング。生活感が所々に感じられる、湊くんの家だった。湊くんの話は半分以上耳から抜けて大して言葉を噛み砕きもせずに頷いた。柔らかいソファーに腰を下ろすと、湊くんはやっと私の手を離してその背中を私に見せる。……うなじ。それがチラリと見えると、私の眼球は勝手にそれに追いかけ忙しなくなった。
湊くん、うなじに語り掛けてみる。私ねほんとうは。紅茶の美味しさとかあんまりわかってない。乾燥させたお洒落な草味って感じ？でも見た目と名前が綺麗だから飲んでた。ただそれだけで、中身なんて見た目があれば関係なくて。この世からルッキズム精神が無くならないのは、きっと生活にそれが溶け込みすぎてるせいだと思うんだ。
お父さんが私に優しくするのも、きっとそれだけの理由なんだよ。くだらないなぁって、私は反抗する勇気もないくせに心でだけ強気で、毒づく。
こんなルッキズムが溢れた世界で、人間は中身が大事って綺麗事言うやつらは、さぞお綺麗で退屈で、他人に大切にされてた人生なんだろう。そんなスタート時点からハンデを背負った私は、何回勝利をすれば、あいつらを見返せるのだろうか。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (11時間前) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
