それでも幸せだから ページ14
その日、私は初めて湊くんの寝顔を見た。泣くことにも体力がいると知ったのは、彼の腕の中で寝落ちした経験に基づく。目が覚めると一番に見えたのは私の家の天井で、うさぎちゃんと悪ふざけにメントスコーラをして作った染みが、今日とて私を見下ろしている。…………すぅ、私以外の音が耳を掠った。全身を跳ねさせてベッドから飛び降りようとした身体を、私以外の腕が掴む。
｢今日は休みやろ……もうちょっと寝なあかんよ｣
｢…………みなとくん｣
｢ん〜？みなとくんやでぇ｣
すぅ。大した説明もなく、湊くんは再び寝入ってしまった。腕どころか足まで私に絡ませ、綺麗な顔して私を逃がさぬよう拘束する。とじた瞼に色が乗っていない。服装も、ラフな白いTシャツとズボンだけだった。目の前にいるのは、着飾っていない本当の湊くん。私がどれだけ焦がれたところで見ることが無いようなものが、どうして今は、いとも簡単にこの目に映せるのだろう。荒れた部屋を背景にして、もう一度彼を認識する。人間の脳は呆れるほど順応してしまうもので、湊くんを異物として認識しなかった。
｢…………なんで？｣
答えはない。でもそれでよかった。私の人生に答えも正解も要らない。震える手で彼の頬に指先を滑らしてみる。額、瞼、頬、耳、薄い唇。指先はそこで止まった。私はしばらくそれを見つめ、そっと顔を寄せた。掠るだけのバードキス。
ボロり、心がこぼれる音。流れた涙でこめかみが冷たい。なんでかは分からない。分からないけど、良かったと思った。私は泣けるほどこの人のことが好きで、愛していて。
こんなにそばにいても、ゆるしてもらえている。
それが私の自尊心を存分に刺激した。幸福って結局、自分の置かれた状況の不幸を知らないから成り立つものだ。世界一幸福と謳われた国だって、外の世界の豊かさを知らない閉ざされた場所だったからの話で。インターネットが普及し外の情勢を知る度、その幸福度は下がっていった。隣の芝は青く見える。私はいつも青々と茂るそれを、指をくわえて見ている側だった。
そんな私が掴んだこの幸福は、普通のカップルが見れば嘲られ間違いだと突きつけられる紛い物だとも知ってる。でも、知らないふりするくらい、いいじゃない。愛した人の腕の中で眠る以上の幸福なんて、私は知りたくない。
普通になれない私を。だれも、責めないで。いつか罰は受けるから。たった今の幸福に浸ることくらい、ゆるしてよかみさま。
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ひな(プロフ) - ぴた様の書かれる言葉や文が大好きです。素直に好きだという２文字しか出てきません。胸焼けしてゆくみたいに心の底からすごいって思います。お話が面白くて、語彙力が高くて、キャラ像が崩壊しなくて、いい意味で胃もたれしました！ありがとうございました！！ (5月9日 1時) (
レス) @page50 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！世界線も繋がってるの面白かったですし、やっぱり惹かれる様な題名や言い回し、表現の仕方 物語で毎回どきどきします！後書きまでも共感しましたし＋αも本編も迚も胸に残る様な感じで印象深く本当に素敵でした!是からも応援しております！ (3月28日 21時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 桃花さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。これからもどうかよろしくお願いします🫶 (3月13日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
桃花 - めっちゃ面白いです！作者さんの作品好きで全部見てるのですが、この作品が特に好きです！ドロドロとした関係で、ストーリーめっちゃ考えられててすごいなって思います。 (3月13日 23時) (レス) @page41 id: 395406b1cf (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます💓これからも楽しんでいただければ嬉しいです！ (3月8日 23時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2023年12月15日 16時
