この雲の下、桜の季節を迎える貴方へ ページ43
「そんなことないです。私、もう支えられなくても立てます。本当ですよ」
刀也先輩は依然として表情を変えない。私は駄々っ子みたいに同じことを繰り返して、先輩を安心させたくて。そんな私の必死さを、彼はいつだって柔く包んでくれていた。
「一人で立てるけど、じゃあ。転んだ時どうすんの」
「……先輩に助けてもらいます」
「うん、正解」
そう言って微笑んだ先輩が心底大好きだと、そう思った。
「結婚してください」
この心臓が叫ぶ音を外に出さないと死んでしまう気がした。だからポロリと出たそれに、先輩は真っ直ぐ私を見つめる。その狭まる瞳が、私を愛おしいと叫んでいた。
「僕は絶対Aと結婚するよ」
何でもない顔。私が思わず笑ってしまうと、先輩は嬉しそうに私を抱きしめた。私も背中に腕を回す。150年前からずっと変わらない、私が愛している温度。どうしよう。こんなにも好きな人がいていいのかな。こんなに人を愛して、いつか罰が当たらないだろうか。……なんて。そんなことに怯えて、この人を愛せなくなるほうが、ずっと恐ろしい。
大好きですって伝えてそれを受け止めてもらえる以上の幸福を、私はまだ知らない。
「先輩。ふは、刀也先輩。好きです大好きです。ずっと、言えなかったけど、やっと言えるようになったんです。……貴方のことを愛しています」
力いっぱい抱きしめると、くっつけた耳に僅かに心音が届いた。彼を見上げる。真っ赤な耳をした先輩は、もっと腕に力を込めて、そして。
「僕も」
って、その瞳に私を収めて言うのだ。
「言っておくけど、これから僕以上にAを好きなやつになんて出逢えないし、出逢わせないからな」
それは先輩もですよって、言えば良かったのに。わんわん泣いてしまった私は、同じく目を真っ赤に腫らしたお父さんと弟、そして叶と葛葉がやって来るまで、彼の腕にしがみついて離れられなかった。
・
「いってらっしゃい」
その言葉に振り返らなかったのは、強がりじゃない。絶対に帰ってくるから、確認必要がなかっただけだ。……ここにいると言ってくれた友だちも、私を愛してくれた家族も、私が心底大好きになった人も。みんなあそこにいる。
季節はすぐに巡る。いつかこの日も数字だけの記憶になって天気も気温も、あの人の表情も褪せてしまうのだろうか。
……ううん、そんなことない。そう思える強さが、私には備わっていた。
窓を覗く。目的地はもうすぐだ。
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シィ(プロフ) - きゃーなんて綺麗な声ではなく悶えるような声を発しながら楽しく読んでいたら気づけば無言で涙ボロボロで読んでました。後日談とか勝手に考えてさらにもーッ!!!って気分です。最高でした。 (4月2日 2時) (レス) @page49 id: 45c181e6d5 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 数時間で一気読みしました。長い長い映画を見たような気分で、ずっと泣いています。「二次創作」や「夢小説」の一言で片付けるにはあまりに勿体ないほどの作品でした。本当にこの作品に出会えてよかった! 現世でも来世でも、さくらもちに幸あれ!! (3月28日 23時) (レス) id: 50bb1a18fa (このIDを非表示/違反報告)
紫月とと - 初めて拝見してから一気見をしてもうボロボロと泣きっぱなしでした笑 こんなにも綺麗な恋があるのだろうか、と夢を見させて頂きましたし、何よりも二人の気持ちが尊すぎました😿🤍 さくらもちに永遠の幸あれ! (3月28日 15時) (レス) @page49 id: 5d87268641 (このIDを非表示/違反報告)
なえ(プロフ) - コメント失礼します。今日(昨日)初めて見てそのまま一気見したのですがここまで大号泣した夢小説は初めてです。軽い気持ちで臨んだのに…とてもよかったです。さくらもちお幸せに! (3月25日 1時) (レス) id: a0bf3e5ea8 (このIDを非表示/違反報告)
るるなる(プロフ) - 完結おめでとうございます、今目の前が見えないぐらい号泣しているのですが、、。幸せな気持ちでいっぱいです。長期連載お疲れ様でしたこれからも何回も見返します。そしてこれからも150年も幸せであれ!さくらもち!! (3月6日 21時) (レス) @page49 id: e4083c598e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴた | 作成日時:2023年11月19日 17時