愛すべし君が ページ42
振り返る。私身体はまるで羽が生えたみたいに軽くて、今すぐ飛んでいけそうだった。
駆ける。刀也先輩が、そこにいた。
「刀也先輩!?」
「僕に挨拶も無しに行くつもりだった?」
「な、なんで。ここが……」
「……さ。叶くんに聞いてみれば」
刀也先輩は葛葉と同じようなことを言い、私の乱れた前髪を指先でちょいちょいと触れた。いつも通りの先輩なのに、その指先だけは何十倍も優しくて暖かかった。
「カナダって、遠くに行くなぁ」
「そうですよ。連絡とるのも時差で一苦労です。それが一年間も続くんですよ!……だから、先輩のことなんて忘れちゃうかも。先輩も、私のこともしかしたら忘れちゃうかも知れませんよ」
これを口に出して、私はまだ臆病が治ってないんだなって自覚する。逃げ道を用意する時点で、私はまだこんなにも彼を失うのを怖がっている。でも、強がりは得意だったから、私は一人で立っていられた。
先輩はふは、と笑った。
「僕は忘れないからいいよ。ずっと好きなんだから、たった一年くらい会えなくたってどうってことねぇわ」
「ふは。ずっとって、あはは。私の方がずっとずっと長いですよ」
「ううん、そんなことない」
先輩はハッキリとした言葉で言い切った。私の右手を手に取り、ぎゅっと握る。先輩はずっと笑っていた。
「もし、向こうが楽しかったなら帰ってこなくたって、どこにいてもいいよ。探し出して迎えに行くから。……僕がそういうの得意って知ってた?何重に囲われた砦の奥でも、絶対に諦めてやらない」
「え、?」
「150年も待たせたんだから、今度は僕が待つ番だ」
………私は彼を見つめたまま、さっき飲み下したばかりの涙が溢れるのを止められなかった。ずるい、って滑った言葉は強がりでも何でもなかった。
「それ、なんで今言うの。ずるい」
「ずるくていいよ。ずるくなきゃ、A逃げるから」
涙を拭ってくれる先輩は涙でキラキラ輝いて、トウヤみたいに笑う。どうして笑えるの。私、貴方のことがこんなに大好きだから、胸がいっぱいで泣いてしまうのに。
刀也先輩はやっぱり笑う。彼は私の頬を片手で包み、人差し指がほくろを撫でた。私がこの強さを心底羨ましがったのは、もしかしたら、私自身がこの弱さを受け入れたくなかったからなのかな。
でも、もう大丈夫だった。
「逃げませんよ。貴方からはもう、絶対逃げません」
もう一人で歩けますからって言えば、刀也先輩は、ばかだなぁとそれに返した。
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シィ(プロフ) - きゃーなんて綺麗な声ではなく悶えるような声を発しながら楽しく読んでいたら気づけば無言で涙ボロボロで読んでました。後日談とか勝手に考えてさらにもーッ!!!って気分です。最高でした。 (4月2日 2時) (レス) @page49 id: 45c181e6d5 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 数時間で一気読みしました。長い長い映画を見たような気分で、ずっと泣いています。「二次創作」や「夢小説」の一言で片付けるにはあまりに勿体ないほどの作品でした。本当にこの作品に出会えてよかった! 現世でも来世でも、さくらもちに幸あれ!! (3月28日 23時) (レス) id: 50bb1a18fa (このIDを非表示/違反報告)
紫月とと - 初めて拝見してから一気見をしてもうボロボロと泣きっぱなしでした笑 こんなにも綺麗な恋があるのだろうか、と夢を見させて頂きましたし、何よりも二人の気持ちが尊すぎました😿🤍 さくらもちに永遠の幸あれ! (3月28日 15時) (レス) @page49 id: 5d87268641 (このIDを非表示/違反報告)
なえ(プロフ) - コメント失礼します。今日(昨日)初めて見てそのまま一気見したのですがここまで大号泣した夢小説は初めてです。軽い気持ちで臨んだのに…とてもよかったです。さくらもちお幸せに! (3月25日 1時) (レス) id: a0bf3e5ea8 (このIDを非表示/違反報告)
るるなる(プロフ) - 完結おめでとうございます、今目の前が見えないぐらい号泣しているのですが、、。幸せな気持ちでいっぱいです。長期連載お疲れ様でしたこれからも何回も見返します。そしてこれからも150年も幸せであれ!さくらもち!! (3月6日 21時) (レス) @page49 id: e4083c598e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴた | 作成日時:2023年11月19日 17時