四月の馬鹿ども、w【fsm】

掴 ページ41

自分のことを大切にしてくれる人を大切にしなさいって、施設の先生は私にそう説いた。先生はきっと周囲の人間にもっと目を向けろという意味で言ったのだろうけど、ひねくれている私は、いっそう世界から拒絶されたみたいにその言葉を受け取った。私を大切にする人なんか居ないって、そう本気で思っていたから、誰も大切に出来なかった。



それをピスサイ君は、目の前で。過去の私を否定してくれた。どうして彼はいつもそうなのだろう。それとも、言葉にしたのは彼だけで、私が見て見ぬふりをしなければ、本当は想っていてくれた人が少なからずいたのだろうか。



………確証のない過去を振り返っても仕方がない。私は今を見なければならないから。



視線を落として、ラブレターを二つに折りたたんだ。今は可愛らしい封筒を持ってないから、そのままになるけど。いつか、ちゃんとした綺麗なやつをあげるから、今はこれで。



｢ピスサイ君｣
｢なに！？｣
｢ピスサイ君にも、いつか手紙あげるね｣



とびきり重たくて、まとまりも無くて、でも君を思う気持ちはちゃんとある。私が君に返せるのはそれくらいしか思いつかないから、いつかちゃんと返せたらいいなとも思った。



｢ガク君｣



彼に呼びかけた。



｢好きなのは、ずっと本当です。私はこれに関して嘘を言った事は無いし、これからも絶対有り得ません｣



何十何百と書いた手紙の中で、唯一彼に手渡されるこの一枚。書き足す事はあっても書き直す事は一切ない。一枚一枚に込めた恋心が、ただ一つの私が信じられる物だった。



緊張で手が震えるのがよく分かった。ガク君を見れなくて視覚は手元ばかりを映す。両手で差し出した手紙は、真っ直ぐガク君へ。いつか夢見た光景が、ここにあった。



｢ありがとう、Aちゃん。……読んでいい？｣
｢はい｣



破裂しそうな心臓。視線は彼の手に渡った手紙を追い、次に彼の瞳を盗み見た。黄金に澄んだ色が細められ、目尻のアイシャドウがよく見える。私が恋したままのガク君。変わらないガク君。どうかこのまま変わらないでって思うけど。もし変わっても私は受け入れられる。それを、ガク君とピスサイ君が教えてくれた。



｢……今丁度良い紙を持って無いから、悪いが言葉で返してもいいか？｣



頷いた私にガク君は微笑んでくれる。彼の赤らんだ頬が、私にも移ってしまった。







俺も、好きだよ。







この世で一番欲しがった言葉が、今。死んでもいいって思った。

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