四月の馬鹿ども、w【fsm】

幸 ページ39

信じる、って今まで鼻で笑っていた言葉なのに。神も仏も、悪魔でさえ私を見捨てる世界で何をそんなにって。分かってる。不幸は私だけのものじゃないことくらい。でも、私は私が世界で一番可哀想って思わないと、今までの悲しみ全部の採算がとれなくて、惨めだから。



なのに、ガク君から発されるだけでどうしてこんなにも信じられる、かも、なんて思ってしまうのだろう。



私は、って口に出してみる。……でも、いつかガク君がいなくなってしまったら、私は一生この言葉を憎んで生きるのだろうか。そうなったら今キラキラ輝くガク君が、思い出す度、悪魔の如く脳裏に映るのだろうか。



そんなの、耐えられない。不幸だ。世界一愛しいと欲しがった相手を憎むなんて、私にとって、今以上で、最低最悪の、地獄。



紡ぐ口が言葉を塞き止めてしまった。






｢A｣



その声に目を丸めて、彼を凝視する。



｢紫牙A｣
｢ピスサイ君、？なに、急にどうし｣
｢僕の一番はAなんだからさ。幸せになってもらわなきゃ困るんだよね｣
｢、｣
｢あはは！マヌケな顔ぉ｣



ケラケラとピスサイ君は笑った。



｢僕も変な意地張るの辞めるからさぁ。Aももっと肩の力抜いて生きなよ。……大丈夫。Aにはずっと僕がいたじゃんか｣





『僕の家おいでよ』





私の手を引いた彼に私は救われた。その過去は、今何があろうと不変で、私が忘れない限り失ってしまうことはない。あの日救われた感情が、確かに私を形成している。それはガク君にも言えることだ。


これまで積み重ねてきた彼との時間が教えてくれる。彼は変わらない。……変わっても私は受け入れられる。



信じるって、もしかして未来じゃなくて過去のことなのかな。過去の彼を信じているから、未来の彼もきっと信じられる。



………それなら、信じるって案外簡単なのかなぁ。






｢…………うん｣



私はやっと、心の底から安堵出来た気がした。私以外のものに怯え続けて、否定し続けて来たけど、それももう終われるのかもしれない。



認めよう。私の過去も未来も何もかも。不幸だったのかもしれない。でも、確かに幸せな事もあったし、これからも幸せになれることを。



｢信じるよ、ガク君のこと｣



もう、自分からも君からも逃げない。そう決めた。







｢ありがとうピスサイ君｣



君は無言でコーヒーを啜っていたけれど、彼が天邪鬼な照れ屋である事は、お互い知り尽くしていた。

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