My HERO 2【短編集】

ウルトラマリン...橋本学 ページ15

｢お前くっそ老けたな！｣

｢お前もな〜｣


｢あいつ今度結婚するらしいよ｣

｢マジかよ｣



八王子の居酒屋が懐かしい声で満ちている

最後に会ったのがもう何年も前の友人や、卒業以来1度も顔を合わせなかった奴さえいる
みんな大人になって、1人の人間になった


高校を卒業して9年

いつの間にか9年も経ってしまった


10代の頃の記憶なんて、もう頭の隅にぼんやりとしか残っていない

それでもあの子供でも大人でもなかった3年間は、人生の中で1番淡くて甘くて苦い、時々口に入れて味わいたくなるような特別な時間だったことに間違いはない



｢A〜あんた彼氏できたの〜？｣


へべれけな友人がハイボール片手に私の肩をつついてくる


『できてないけどいつかできる！』


｢そう言い続けてもう9年も経ってしまったのね、、｣


『いや別にこの9年1度も出来なかった訳ではないから！』


はいはい分かったと諭された


『あんたはいいね〜彼氏と仲良くて』


｢でもそろそろ結婚とかもさ、考えて欲しいなって思ってはいるのよ
あの人そういうとこほんとに無頓着だから｣

『あー、それはまぁね』


なんとなく返事に困って
氷が溶けて薄くなったジントニックを飲み干した


結婚なんて

小説とかドラマで一生見てるもので
お母さんとお父さんがしたもので
自分はいずれするのかな〜って漠然と思う対象

だと思っていた
けど
もうそんな事当たり前に考えないといけないんだな



｢おい学おせーよ！｣

｢わりー｣


入口あたりがやけに騒がしくなったので頭だけ伸ばして見てみると
学が笑いながら店に入ってきた



｢よお｣


『よ』


｢全然変わんねえなお前は｣


よっこいしょと向かいの席に腰掛けて店員さんにビールを頼む


中学から知ってる学
学って名前のくせに勉強ができない学
バンドマンの学


『学はどうなの？』


｢なんも変わってねーよ｣


『確かに、変わってないね』



文化祭の狭いステージでセットが壊れる程暴れてた奴が、今じゃその何倍もでかいステージで何千何万の人の前を駆け回っている


立場は何も変わっていないなんて嘘だけど
橋本学という人間は、あの頃から1ミリもブレずに大人になったみたいだ



｢お前がこういう席出るの珍しーよな
すっかりスターになっちまってよぉ！｣

｢スターじゃねえよ！笑｣

｢ゴチになります！！｣

｢おいおい学にたかるなよ〜｣



何気ない空気や会話
皆が集まると途端にあの湿っぽい校舎の匂いが漂ってくる

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