橙⌇お互い様 ページ1
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「ただいま」
リビングの明かりは灯いている。
ソファから丸い頭と大きな左手がゆらりと覗いた。
「おかえり」
いつもより少し低く、心地よい声が降ってきた。それにぐっときて あー今すぐソファに倒れこみたい と思ったけれど腹が減ってはなんとやら。まず何か口にしないとそれこそ倒れてしまうので、重い体を引きずってキッチンへ向かう。
「ご飯食べた？」
「んーんまだやで」
「え？もうこんな時間なのに」
「なんか今日あんま食欲無いねん」
その言葉に足を止めてリビングを見ると、ビールの缶が3本と俯いて静かにスマホをいじる私の彼氏。珍しい。なんかこの状況前にもあった気がするな、、、。あ思い出した。たしかあの時は1人で泣いていた。そっか今日もこの人は…。体の重さがどうでもよくなった気がして、ふわっと彼に手を伸ばす。
「ねぇ康二 大好きだよ」
湿ったくせっ毛を撫でると思いっきり見開いた綺麗な目がこちらを見る。今日初めて目が合ったかもとぼんやりしながらそれに見蕩れてしまう。
「えっな、なに急に」
「今日もたっくさん頑張ったんだなって思って。お疲れ様」
「あんま繋がってない気するんやけど…あっ昨日な？話すの忘れてたわ！書類作ってた時に隣のデスクの舘さんが」
ぼそっと呟いたあと、私から顔を逸らすように早口でエピソードトークを始めた彼。お酒のせいもあるのか顔と耳が赤く染まっているしなんだか目もうるうるしている気がする。
「ってことがあってん！久しぶりに笑い止まらんかったわ」
「…あ、そーなんだ」
「それ全く聞いてなかった人の反応やん」
段々調子が乗ってきた康二に安心して、気づかれないようにほっと一息つく。ほんとに彼は愛おしい。
「っていうか食欲ないって言ってもまだ明日仕事あるんだから、何か食べないとでしょ」
「でも喉通るかわからん」
「ほら前作り置きしといた冷たいスープあるよ。これなら食べれるんじゃない？」
「あ〜それならいけるかも」
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作者名：みもざ | 作成日時：2023年7月10日 22時
