【d!】我々、詰めました【短編集】 (ページ10)

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ミルクは不要です【 eml 】ページ10

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毎週水曜日の午後。
授業がない私は『研究室』と書かれた札がぶら下がっている部屋に向かう。

通い慣れたその部屋の扉をノックするとはい、と声が返ってきた。失礼しますと声をかけて扉をあける。年季の入ったこげ茶の扉は少し重く、立て付けが悪いのか押すとｷﾞｨ、と音を立てて軋んだ。

「こんにちは」
「こんにちは Aさん」

部屋の中には柑橘系の匂いが充満している。その中に目当ての人物は立っていた。

「今日のお茶会のお供はレアチーズケーキですよ、教授」
「今日の紅茶によく合いそうですね。ジャムはブルーベリーでいいですか？」

チーズケーキの上にブルーベリージャムがとろりと落ちていく。陶器のプレートに乗せられたケーキは安物のはずなのに高級感を漂わせている。

「…アールグレイですか？」
「正解です。Aさんも大分紅茶に詳しくなりましたね」
「エーミール教授のお陰です」

教授は嬉しそうに笑う。

「アールグレイはイギリスでとても愛されている紅茶なんですよ。爽やかな味わいなので甘いものに合うんです。Aさんのお茶請けを選ぶセンスは抜群ですね」

なんとなくで選んだだけなのにここまで褒められるとは思わなかった。少し恥ずかしい。

「こうやって誰かと飲む紅茶はいいですね」
「分かります。教授の淹れる紅茶は世界で1番美味しいと思ってるんですよ」
「そんな大袈裟な」

ははっと教授は笑う。三日月形の瞳は陽光を取り込み、きらきらと光っていた。

アールグレイは少しだけ苦く、教授が用意してくれたミルクを紅茶に混ぜる。まだまだ舌は子供みたいだ。

「この先もずっとお茶会…って思いましたけど、Aさんはそのうち卒業してしまうんですよね」

「来年も再来年も…卒業しても来ますよ」

私の言葉にエーミール教授は驚いたように目を開き、こちらを見た。

「毎週水曜日、絶対来ますから」

教授の淹れる紅茶が好きだから

教授と過ごすこの時間が好きだから

「大人になったらミルクいれなくても飲めますかね」
「ふふそうですね」
「そしたら…」

ミルクをいれなくても飲めるぐらい大人になったら教授に伝えてもいいですか

私が毎週通うのは、

教授が好きだからですって

聞こうと思ったけれど勇気が出なくて、私はまだ少し苦いアールグレイと共にその言葉を飲み込んだ。

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お久しぶりです

勉強の息抜きに更新しました
表紙もつけてみました…！

表紙メーカーさんありがとうございます