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「……で、どうしてまたやっちゃったんですかー」
煙草を口から離してぶっきらぼうにそう言った彼に少し、申し訳なくなる。
こんなこと言ったら、今度こそ怒られるかな。
そんな考えを巡らせても、まだ普通とは言えない脳では喉からするする紡がれる言葉を止めることができない。
『ハッピーパウダー、だから。ね。はっぴーになれるかもよ』
返事は何も、帰ってこなかった。
いつもなら「だからって一気に何個も飲む意味がわからん」とか。言ってくれるんだけど。
くすり全然抜けきってないや。
言いたいことは沢山あるはずなのに。思いつく言葉全て、ふわふわ脳内に漂うだけ。
『…たばこ、やめて。気分わるくなってきた』
素直に言えば、彼は一拍置いてから煙草を灰皿の火消し口に差し込んだ。
ありがとう、とちっぽけな感謝を伝えようと小峯さんの方に体を向ければ彼もこちらを見ていて、ふと、頬に手をあてがわれる。
どうして笑ってるの?なんて、どうでもいい話のひとつも訊かせてくれないで。
よくない。よくないなあ。
まともに動いてはくれない脳が全て彼に委ねようと提案してきたのは、かわいいリップ音が1回、聴こえたあとの話。
ハンドルに添えていた手をするりと取られる。
わたしの身体をじわじわ蝕む副流煙の残る車内。ゆるやかな死を、受け入れる。
眠りにつくようにゆっくり、目を閉じる。
弧を描く唇が最後に目に映った。
意識をふわりと持ち上げられるような、そんなひどい感覚。
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なな(プロフ) - 「あくる日の」のお話めちゃくちゃ好みです...!悪いれだーさんまた読みたいです (3月27日 20時) (レス) @page5 id: 412825c0ad (このIDを非表示/違反報告)
ちーかのすけ(プロフ) - マジで好きです!(*´ω`*)今回もめっちゃ良かったっす😇✨💕 (2月13日 8時) (レス) @page11 id: 927919367a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなり | 作成日時:2024年2月10日 19時