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着信音。
『……もしもし?』
「はいもしもし」
なんの用?と、まるで最後に話したころと何も変わらない様子でそう答えたのは紛れもない彼。
『元気にしてる?』
妙に静かな今の頭ではありきたりな言葉しか出てこない。否、何をどう聞けばいいのかも、どんな話から始めればいいのかもわからないだけ。
「え?…ああ、うん。まあそれなりには」
控えめに笑いながらそう答えたのは、
やはり彼、
なんにも変わらないあのひと、
彼だけが、何も変わっていないみたい。
こんなこと、気にしているのはわたしだけかな。
『今どこにいるの。ねえ、どうしてどこにもいないの?なんで何も言ってくれなかったの』
ただ私はあなたの人生全てを肯定したい。
ただ当たり前のように隣にいてほしいと言わなければいけない。
ただそれだけの言葉を何も言わずに聞いていて欲しい。
1度そう思ってしまえば、聞かないつもりで抑え込んだ言葉もすべてするする口から出てゆく。
「A」
これがすべて夢で、罰だと言うのなら甘んじて受け入れよう。たしかな幻想に祈り続けることさえやめてしまおう。
「…名前、呼んでほしい」
だから、何も知らないフリは終わりにしよう。
『らでぃ、ねえラディ。呼んだよ。呼んだから。いま、どこにいるの』
夜明がもう終わる、
「外、出てみな。
あ、ベランダじゃなくて、玄関からね」
夜明ももうじき終わる。
『……いるの?』
期待してしまった。
暗い部屋の中、ひどく震える足をわけも分からず引きずる。
「まあまあ、早く」
もし神様がいるのなら、
そう願いを込めて足を進めてしまう。扉の向こうについて、祈ってしまう。
「ほら、もう朝が来ちゃうから」
ああ、時間すら私たちを追い越して、
この夜明けが止まったままで、
彷徨い続けるこの想いすら放ったままに、
ただあなたは何も変わらないでいて。
なにも知らないまま、
玄関のレバーハンドルに手をかけた。
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なな(プロフ) - 「あくる日の」のお話めちゃくちゃ好みです...!悪いれだーさんまた読みたいです (3月27日 20時) (レス) @page5 id: 412825c0ad (このIDを非表示/違反報告)
ちーかのすけ(プロフ) - マジで好きです!(*´ω`*)今回もめっちゃ良かったっす😇✨💕 (2月13日 8時) (レス) @page11 id: 927919367a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなり | 作成日時:2024年2月10日 19時