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『……先輩って女の人なんですか?』
今思えば、
やっぱりすこし、失礼だったかな。
窓を開けたせいでひんやり冷えた車内に流れ込む暖かい風とともにそんな言葉を投げかけた。
「…んー」
『あ。ごめんなさい、大丈夫です。失礼でした』
「いや?Aはどっちだと思う」
『え。うぅーん、と』
どっち。何度考えたってわからない。
だって、何度考えたかもわからないんだから。
蒸し暑い沈黙が流れる。
「わからん?」
『はい、わかんないです』
先輩の楽しげな笑い声がうざったいくらいの熱気を薄めたような気がした。
「どっちだろうねえ」
どっちだろう、だなんて。
「男でも、女でも、好きでしょ?オレのこと」
しゃわしゃわしゃわ。
何をそこまで呼んでいるのかせわしなく鳴き続ける蝉の声も、そのすべてをかき消してはくれない。
どう答えるべきなのかも分からないまま変わらぬ静寂が漂い続ける。
「おい、こっち見ろって」
うれしそうに、笑ってそう言ったこの人の声も、
蝉の声すら聞こえなくなりつつあるほどこんがらがった思考ではうまく処理出来なくて、まともな返事のひとつも出来そうにない。
あってはならない醜い汚い感情だと、
内へ内へと押し込んで自分のことさえも騙そうと、隠そうと、必死に気付かないふりをしてきたこのひどい感情の名前を、ついに知ってしまう。
「言って?好きって」
脳を直接殴りつけるようなひどい暑さでついに頭でもおかしくなったのかな。
なんて、すべてこの熱のせいにしてしまいたくなった。
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なな(プロフ) - 「あくる日の」のお話めちゃくちゃ好みです...!悪いれだーさんまた読みたいです (3月27日 20時) (レス) @page5 id: 412825c0ad (このIDを非表示/違反報告)
ちーかのすけ(プロフ) - マジで好きです!(*´ω`*)今回もめっちゃ良かったっす😇✨💕 (2月13日 8時) (レス) @page11 id: 927919367a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなり | 作成日時:2024年2月10日 19時