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顔を上げた北くんが、不機嫌そうな目で私を見下ろす。純真無垢なふりをして首をコテンと傾げてみれば、ふっと小さく笑った。
こんな笑顔は初めてだ__ああ、だめじゃないか。
業務上の関係、そんな名前の鎖が今 消え去ってしまった。押し隠そうとした気持ちが溢れ出てくる。寂しさと一緒になって、波のように何度も何度も。
「冬沢先輩、」
「大丈夫__ 」
「じゃないですよね」
「あはは……だめだねぇ、年取ると」
「まだ18でしょう」
飽きれたように笑う北くんとは、今日でお別れだ。泣くのはさっきので終わり、1年にも満たない間だったけど、ちゃんと先輩でいられただろうか。
間延びしたチャイムが、下校時刻が迫っていることを教えてくれる。散らかった紙を片付けようと1枚1枚集めていると、何枚か重なった束の上に、握り締められグシャグシャになった紙がそっと置かれた。
そこにあったのは、『自分の選択を信じて、 応援しています』 の文字。見覚えがある__私の筆跡、私のセリフだ。出したはずのそれが、なぜここに。
ハッとして北くんの顔を見つめると、心なしか頰が赤く染まっている。時間が止まったように周りの音が消える。体の感覚器官がまるで使い物にならない。
「冬沢先輩、」
「ちょお待って、キャパオーバーや」
「後任指導、俺も手伝わせてください」
「……は?」
さっきの手紙は出し忘れで、ただ北くんはそれを拾っただけで、全部私の勘違いという事だろうか。自意識過剰、の5文字が体中を駆け巡り、反対に体中から血の巡る感覚が無くなっていく。
「側にいさせてください、って意味ですよ」
「ほんま北くん、心臓に悪いって……」
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作者名:あべかわもち | 作成日時:2018年12月22日 19時