北くん来た

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:5,495 hit

・ページ1

「冬沢、そろそろなんだけど」
「あれ、もうそんな時間？」

ふぁぁ、と欠伸をすると呆れたように腕時計を突き出される。国内で1番メジャーなスポーツメーカーの腕時計の針は、きっかり16時45分を指し示していた。
それはつまり、今すぐここを出ないと間に合わないということになる。

焦って立ち上がると、風圧で窓のカーテンがふわりと揺れた。幸い、必要なものは全て事前にまとめてある。10分前の自分に感謝して、籠を持ち上げた。

「準備がいいのか悪いのか」
「私を誰だと？」
「ハイハイ」

軽くいなされつつ、多目的ホールのドアを開ける。そこには既に、各委員会の代表者と、生徒会委員が数名集まっていた。
足を踏み入れると、あまり使われていない部屋特有のホコリっぽい匂いが鼻を突く。

着席しているのは、稲荷崎の中でもキッチリしている面々で、キッチリしすぎていて、息が詰まりそうだ。それを副会長に訴えたところ『冬沢も相当キッチリしてるから』だそうで。

面白さを求めたい私としては、釈然としない返しである。恨みを込めた目で副会長を見つつ、手では資料を仕分けしていく。……あ、こういうところか。

まぁ、こんなことくらいは出来ないと、クラスメイトから生徒会長に推薦されることもないわけで(どちらかというと、押し付けられたのだが) 部活も入っていない私は、この役職を楽しませてもらっているのだ。

「会長、これお願いします」
「はいはーい、相変わらず仕事が早いね。北くん」
「ありがとうございます」

にこりともせず、淡々と資料を渡してくれたのは、2年8組の生徒会書記北信介くんだ。見かけ通りに仕事ができる北くんには、色々とお願いすることも多い。私の右腕が副会長なら、左腕は北くんなのだ。

バレー部にも所属していて、しかも成績優秀、宮兄弟がいるから目立たないが、容姿だってかっこいい部類に入る。噂に聞くには、宮兄弟を止められるのは彼だけだとか。

「うん、パーフェクト。もう始まるし、席戻って大丈夫やよ」
「はい」

埋まり始めた席を一望した後に、始まりの挨拶をする。副会長の進行を聞きつつ、手元の紙を見つめた。

そんな頼もしい北くんと私には、2人だけのある秘密がある。……あ、いやらしいやつじゃないよ。