魔法をかけて【国見英】 (ページ2)

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変わりそうでページ2

国部 A……中学校の頃の後輩の名前だ。楽そうだという不純な動機で入った、保険委員会。
だらだらと緩い活動の中、やけに働いていた姿が脳に染み付いている。

癖っ毛だったか猫っ毛だったか、ふわふわした茶髪の長い髪で、大きめの筆箱に色鉛筆を入れていた。
眠そうな俺の目と違い、優しそうなぱっちりしたそれを持っていたくせに、世の中を見透かしているような、そんな感じ。

『国見先輩』

まだ幼さが抜けていない甘ったるい声に不似合いな、はっきりとした発音でよく呼ばれた。これが透る声だと、納得したのが手に取るように思い出せる。

俺はあんまり後輩を覚えているわけじゃない。現に保険委員の後輩も、半分は思い出せない気がする。
それでも覚えているのは、名字が似ていたからか、大きな目が焼き付いているからか。

「おい、国見」
「何だよ？」

金田一が俺の袖を引っ張り、向こうを指差した。普通の人に対しては、だいたい礼儀正しい金田一が人を指さすのは珍しい。

逆に言えば、それだけ動揺したということなんだろう。俺も動揺した。金田一なんて比じゃないくらいに。そりゃもう。

「あそこにいるの、国部じゃないか？」
「……分かってる」

俺よりは格段に後輩思いだった金田一は、関わりなんて皆無に等しかった後輩のことも覚えていたらしい。

分かってる、と返したものの、俺一人では確信できたか怪しい。それもそのはず、あの長かった髪の面影は一つもなくなっていた。

でも「国見先輩」と凛とした顔で足早に近づいてくるのは、まぎれもなく国部だ。近づくほどに、その輪郭ははっきりしてくる。

人を吸い込んでしまいそうな大きな瞳には、相変わらず世の中を見透かしているような、それでいて全てを面白がっているような光が浮かんでいる。

昔も今と同じように低燃費を心がけていた俺は、自分自信に厳しいこの後輩が得意とは言えなかった。でも、国部にまっすぐ目を見られて、話をするのは嫌いじゃない。

「お久しぶりです。大好きな国見先輩」

後輩は、1ミリの迷いもなく真顔で言い切る。思わず、そのまま何気なく応えてしまうような軽いノリで。

混乱して真っ白になる頭で、隣の金田一が固まったのを捉えた。出来るなら、そのまま気絶したかったような気もするけれど。