魔法をかけて【国見英】 (ページ1)

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変わっていてもページ1

あれは、何歳の頃だっただろうか。小学校に入る前、児童館の図書室で読んだ話。内容はもちろん、表紙も、手触りも、香りまで、今ここにあるかのように思い出せる。

あの頃の記憶なんて、これっぽっちもないくせに、この話だけ鮮明に思い出せるのは、きっとそれほどに衝撃的だったからだろう。

ゆとり世代の端くれだというのに、ゆとりなんてものは存在しなかった。可愛ければ上になり、そうでなければ下に行く。
幼稚園児だって見くびってはいけない。階級社会に幼いも何も無いのだ。

そんな中で、玉の輿＿＿(もっとも、その時はそんな言葉など知らなかったのだけれど) は私にとって、十分すぎる刺激だった。たとえそれが、ありきたりの、あの話だったとしても。

継母たちにいじめられていた女の子が、魔女の助けを借りて、舞踏会に行き、王子様と結婚する話。その年頃の少女らしく、お姫様という存在に心から憧れた。

でも、それと同時に浮かんだ疑問がある。

魔法をかけてもらえなかった女の子は幸せになれないの?

その小さな疑問について、まだ幼いながらに必死に頭を働かせたものだ。この女の子だけ特別だなんて、そんなのは可哀想だ。

自分のことは、空高く棚に放り投げ、寝ても覚めてもそのことばかり考えた。一冊の本を前に、うんうん唸っている娘を見た私の両親は何を思っただろう。

まぁ、そんなことはどうだっていい。考えに考えた挙句、私は1つの答えに、辿り着いた。

魔法を、自分でかければ良いんじゃない？
小さな頭で思いついたそのアイディアは、とてつもない名案に思えた。

自分のことは、自分でしましょう。小学校入学が間近に迫り、先生にそう言われ続けていたのもあるかもしれない。何せ子供だから、そこら辺は単純なのだ。

私が杖の代わりに選んだのはこれ、色鮮やかな色鉛筆だ。誕生日に母親に貰った12色の色鉛筆、そこからたくさんの色を集めていったのだ。

なんでこんなものを、と文句を言われながら、それでもねだり続けた。色鉛筆が増えるたびに、自分の使える魔法が増えるような気がした高揚感、今でも昨日のことのように思い出せる。

これさえあれば、私はいつでも魔法をかけられるのだ。……ただ、その機会がなかっただけで。

ついにその時がやってきた。私は魔法をかける時を見つけたのだ。勇気の出る魔法を、自分にかける。私には今日しかチャンスがない。

「大丈夫、ちゃんと出来るから」