ガラス細工の恋 (ページ3)

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「ご、ごめんなさい」

悪くないのに謝った優しい声は、あの夜に聴いたものと酷似していた。垂れた茶髪の間から覗く幼い顔を見て、自分の予想が正しいことを確信する。
向こうも俺に気がついたようで、大きな目がさらに広がった。

「え、あ、」
「大丈夫でした？」
「あ、はい。あの……」

なにか言いかけた彼女に向かって、静かにするようにとジェスチャーを出す。さっきの騒ぎで好奇の視線がこちらに集まっている。注目されるのは出来るだけ避けたかった。

トラブルが無ければとっくに席についているはずだった全国チェーンのコーヒーショップを指差す。意図を感じてくれたらしい彼女は、これだけ借りてきますねと立ち上がった。

……見かけによらず、たくましいタイプらしい。

外からの光と照明のせいか、やや明るすぎるボックス席で彼女は藤野 Aと名乗った。紺色のセーラー服に白いリボン＿＿隣の高校だ。俺と同じで2年生に上がる彼女は、幼稚園教諭になるのが夢なのだそうだ。

ブラックコーヒーを飲む俺の前で、見ているこっちが胸焼けしそうなくらい甘そうな、なんたらチーノを口に含む。ピンクの液体が、太いストローを通って口の中へと流れ込んで行った。

「白布くんは＿＿」
「白鳥沢」
「……！すごいね……」

他愛もない話をしていると、あっという間に時間が過ぎていく。ふと気が付けば、時計の針が文字盤の最上部でピタリと重なっていた。

バイトがあるから、と空になったカップを握りしめて立ち上がろうとする藤野さん。このまま昼食もここですませてしまおうかと考えていると、サラサラした髪が後ろに流れた。

「もし、良かったら……あの……」

スマホを両手で持ってもじもじする姿から、何を言いたいかはすぐに察することができた。ズボンのポケットに入れておいた同じ型のそれを引っ張り出すと、2人で画面をつき合わせる。
ピコンと音がした瞬間、可愛らしいウサギのアイコンが友だちに追加された。

嬉しそうにへにゃりと笑った藤野さんは、大量の教則本を持っていた袋に詰める。手際がやけにいいのは、雑貨屋でのバイトの成果だろうか。

重そうに袋を下げ、ヨタヨタと去っていく後ろ姿。……追いかけなかったことを少しだけ後悔した。