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ページ37

伊野尾side


“出来そこないの俺には…”


そんな話をしたのはもう随分と前。


大ちゃん自身は、親が来ない事に何も不満を持っていないらしかった。






随分と前の事なのに、どうして今思い出したのだろう。


まるで昨日話された事のように鮮明に覚えていて、


なんだか嫌な感じがした。







…今日は早めに大ちゃんの所へ行くか。






早足で大ちゃんの所へ向かう。


嗚呼でも、あんまり早いと大ちゃんまだ寝てるかな。







そう思いながら、隔離された病室のドアノブに手をかけた。







…のに、俺はドアを開けられなかった。









有「久しぶりだね。なんで来たの?」


『なんで来たのなんて聞く?』


有「妥当な質問だと思うけど」








聞き慣れた声と、聞き慣れない声。


でも俺は、この声の持ち主を知っている。









有「なんで来たのって聞いてんだけど」


『母親にむかってその言い草はないんじゃない?』


有「愚問だね。誰が母親だって?」


『生意気になったものね。そろそろ死ぬ頃かと思って来ただけよ』


有「残念。生憎あと二ヶ月あるんで」


『へーっ。あの先生の言った通り、一年経つまでは本当にくたばらないんだ』


有「その通りだけど?」


『つまらないわね。じゃあ本当に死ぬ頃また来るわ』








足音が近づいて来る。


耳障りな、この空間に不似合いなハイヒールの音。







あの日も、この音を聞いた気がする。









有「…もう来んな」


『…は?』


有「ここ隔離病棟なのに、どうやって入ったんだよ。もうすぐ死ぬ俺のもとには二度と来ないって言ったくせに」


『あんたの母親だって言ったらすぐ案内されたわ。警備緩いんじゃないの、ここ。それに、あんたが死ぬのはあの伊野尾っていう先生の治療が下手だから、』


有「うるさい黙れ!先生を悪く言うな!二度と俺に顔を見せんな!」









声を荒げる大ちゃん。


女の不気味な笑い声と共に、開きかけるドア。


急いで俺は隠れる。







女が出て行く。


暗い廊下に消えて行く。


あの背中を、もう二度と見ない事を俺は願う。








膝を抱えて静かに泣く大ちゃんに


かける言葉も見つからないまま、背中を撫でた。








そして大ちゃんは、一ヶ月間一度も病気をしなかった。







有「俺の勝ち、だね」







あの日の事など何もなかったかのように、大ちゃんは笑っていた。

経過、十一ヶ月目。→←、



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雛苺(プロフ) - 笙緒さん» コメントありがとうございます!まさかそんな偶然があるなんて…驚きです!笑。少しでも楽しんで頂けましたでしょうか?良かったらまた、お話を覗きに来て下さい!こちらこそ本当にありがとうございました! (2019年5月23日 19時) (レス) id: c975393570 (このIDを非表示/違反報告)
笙緒(プロフ) - 完結おめでとうです!私事ですが前に大ちゃんの写真に青いカラコン付けてみたことがあったんです。そしたら物凄くキレイで今回ホントにお話になっちゃった!ととても嬉しく思いました。ホントにありがとうございました! (2019年5月22日 21時) (レス) id: e66222057e (このIDを非表示/違反報告)
雛苺(プロフ) - ゆきみさん» コメントありがとうございます!この設定気に入って頂けたようで凄く嬉しいです!先生×患者、キュンキュンして頂けましたか?きっとまた、こういう系統のお話を書きます。そしたら、暇つぶしにでも覗いてやって下さいね!よければ、次のお話もよろしくお願いします! (2019年5月21日 21時) (レス) id: c975393570 (このIDを非表示/違反報告)
雛苺(プロフ) - 名無しさん» コメントありがとうございます!なんと…Twitterのフォローまで…恐縮です!有岡さん病系のお話はあまり書いた事が無かったので不安だったのですが…楽しんで頂けたようで、こちらも嬉しいです!できればまた挑戦したいなぁ…笑。また次回作で会いましょう! (2019年5月21日 21時) (レス) id: c975393570 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきみ - 完結おめでとうございます!!雛苺さんの作品大好きです。有岡さんが病気で伊野尾さんが先生という設定が素晴らしくタイプでした…!笑 毎日の楽しみでしたありがとうございました!!これからも頑張って下さいね! (2019年5月21日 19時) (レス) id: 9edaa1908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛苺 | 作成日時:2019年3月27日 20時

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