蒼眼病(inar)

経過、五ヶ月目。 ページ20

有岡side


伊｢…両方、｢お願い｣を使わなかったわけだし、じゃんけんしよっか｣




やけに積極的じゃん。


二分の一の確率で自分が負けて、言いたくもない好きな人を知らせるハメになるかもしれないのに。


…でも俺は、もう伊野ちゃんの好きな人分かっちゃったもん。








有｢…良いよ、俺の負けで｣


伊｢え…？どしたの大ちゃん…急にそんなこと｣


有｢…いっつも俺ばっかり勝ってるからさ！たまには伊野ちゃんに花を持たせてあげよーかなって｣








まあ、これも本心ではあるよ。


俺の我が儘に付き合ってくれてる伊野ちゃんを、毎回負かすのは気が引ける。


いつか俺が絶対に負ける賭けをしようと思ってた。


今ちょっと、時期を早めただけ。








好きな人、


…知っちゃったから。伊野ちゃんの口から本当の事を聞きたくないから。


だから、そういう事にしておいて。








伊｢…なんか隠してる？｣


有｢な、何も…隠してなんかない…｣


伊｢じゃんけんに勝つだけで俺の好きな人知れるんだよ？あんなに知りたがってたのに｣


有｢良いって…！言いたくないんでしょ？｣


伊｢…何かあった？｣









何もないよ。


見ただけだし。


伊野ちゃんが、看護師さんと楽しそうに話してるのを。


俺名前思い出したよ。山ヶ崎さんだ。








有｢…山ヶ崎さんが好きなんでしょ｣


伊｢は…？いきなり何言って、｣


有｢伊野ちゃんは俺の主治医じゃん！なのになんで…っ｣


伊｢ちょ、大ちゃん落ち着いて、｣









主治医が担当の患者に構う事の何が悪いんだよ。


伊野ちゃんが俺一人に構うのはいけない事？









有｢俺の病気が、伊野ちゃんの仕事の邪魔してた…？｣


伊｢そんなこと、｣


有｢伊野ちゃんが俺に構うのだって、…本当は…｣







“仕事だから”


“奇病を持ってるから”


“可哀相だから”








…そんなのもう、聞き飽きたよ。


皆して、俺のいない所でそうやって好き勝手に言うんだ。


まるで、俺は死ぬ事が決まってるみたいに。


親でさえも。






伊野ちゃんだけは、何も言わなかったのに。








有｢伊野ちゃんが嫌々俺の治療してるなんて、知らなかった…っ！｣








マスクも何も付けないで、裸足のまま病室を飛び出した。









伊｢大ちゃん！｣








先生が俺を呼び止める声、聞こえてたけど。

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