U-17に存在した虚無の番号 Second Games (ページ5)

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Tennis match No.54 ページ5

互いに寒いのだろう、とは思うが私もほぼ着の身着のままなのでどうしようもない。一週間でこっちに放り出されるとは思わなかったから。…そう考えると誰も洞窟にいなかったタイミングで放り出されて良かったのかも知れない。冷たい岩肌に身体を寄り掛けると、僅かに痛む傷はあるけど何とかなる。…合宿所より居心地が良いと思った。内心の緩みが出てきて、何だかとてもやるせない。

「おねーさん」

「…A。向坂A」

「じゃあA」

呼びにくいだろうから、って名前で良いと暗に言ったには言ったけど…うーん、だからって本当に名前呼びか。裕が憤慨しそうな様子で、私と越前くんを見ている。彼の後ろには、彼と背丈が変わらない赤髪の子がいた。チラチラとこちらを見ているとは分かるがその視線がむず痒いから、手招きをしてみる。すんなりと出てきたその子は一通り聞いていた話とは打って変わって大人しい。騒がれても困るから丁度良い。

「…ワイ、遠山金太郎言いますねん」

「有難う。私の名前は分かるかな」

「向坂の姉ちゃん！…名前は、Aやんな」

「合ってるよ。…さて。私は今日の朝日が昇ってから暫くはここにいるから宜しく」

私の前に座り込んできた遠山くんはすんなりと私に馴染んだのか否か、隣に入り込んでいた。…私と、裕の間に。お陰で裕が変に苛立ちを表に出していたけれど、遠山くんは眠かったのか温もりが欲しかったのか…くらいの理由しか考えられない。裕にはその理由を言って落ち着かせ、私は密かに溜息を吐いた。そして気付いた時には遠山くんの反対側には越前くんが陣取っていて…もう好かれたのだろうか。

「…アンタに協力するよ、俺は」

だから俺の事は名前で呼んでよ、A。
そう言われた。…呼ぶ事に対して抵抗は無いから、越前くんを名前で呼ぶ事にした。名前なんてただの人間識別記号だと思っていた時期もあったから、何の疑いも無く人の名前を呼べる事が私にとっては大きな成長だと思っている。
他のメンバーも各々で眠る準備をしている様だ。遠山くんもリョーマも私に身を寄せたままの為、抜け出せる余裕は無い。彼らを気遣っておこうかと思っていたのだが、本人達が気にしないのであれば私が気にするというのも何だかおかしくなってしまうから仕方無い。…男所帯で何日も過ごすと、自然と慣れてしまうのだから慣れは恐ろしいなと思う。
ゆっくりと瞳を伏せ、呼吸を緩慢にすれば睡魔が忍び寄る。意識を手渡して私は眠りへと落ちた。