U-17に存在した虚無の番号 Second Games (ページ39)

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Tennis match No.88 ページ39

先に打ったのは右白虎、これは左になる。左白虎なら、誰も触れられない。右はタイミングを見計らえばいけるけれど、これだけは誰も触れていない。右白虎だと安心し切って油断した顔の幸村くんが打ちに前へ出るけれど、打てない。

「ボールはラケットをすり抜けたりなどしない！」

そうは言われても、錯覚は見せてる訳だから混乱しているのかなと呑気に考えてみる。彼も未だ幼いからね。意地になっているのか、数度だけ身体を捻って打とうとしているのは良いけれど、無駄に体力を消費しているだけだと早めに気付いてくれないかな。跡部くんも同じ策に引っ掛かって打ち返せないまま、私の左白虎はネットポールの上に落ちた。

「幸村！」

「しまっ…」

「油断してると、痛い目を見るよ。坊や達」

叫ぶ跡部くんの声で振り返った幸村くん諸共、二人へ言葉を送り付ける。年の差によってそう言えるけれど、むず痒い。緩やかに笑んで見せれば、ポール上のボールは向こうのコートへと小さな音を立てて落ちた。

「…もう、5-4なのか」

「後が無いね、二人共。…もう終わらせるよ、これ以上やる意味を見い出せない」

「それはどうだか。向坂A！お前は既に負けが決まってんだよ…もう出せる技なんて無いに等しい。あの麒麟とやらは負担が強いと多用出来ねえ、二つの白虎は捉えた。朱雀も、青龍も。あらかじめ頭に叩き込んだお前の技、玄武は敢えて使わねえんだろ？後が無いのはテメェの方だ」

あの眼、やはり侮っちゃいけなかったか。とは言っても、これ以上長引かせると私が蔵と同じ様にイップスに陥ってしまう可能性がある。…揺り起こすべきか、打開をするべきか。頭を悩ませながら、放たれるサーブを返していく。だけど…。

ラケットを握る感覚もボールを打ち返す時の感覚も重みも、地面を踏み締める感覚も無くなった。イップスの初歩に差し掛かっているという事だ。だ触覚が消えても音と映像で返せる。段々と追い付かなくなるのは、足の方か気持ちの方か。気付いたのは、視界が暗くなる瞬間にコートが目の前にあったという事。それは倒れたに等しい。…そんな状態で良いのか？

倒れたその視界の先、蹲ったままの蔵へ手を伸ばす。地に投げられた包帯の巻かれる左手に触れた気がした。