Tennis match No.83 ページ34
最終決戦と言っても、まあいつも通りやる事は変わらない。単に若干のブランクはあるかも知れないけれどそれでも私は勝たないと此処に私が居て良いという扱いにならない。それは嫌だ、と感じると言うか…あれかな、そうなってしまえば私はテニスをする場所も何も無くなる。本当の意味でテニスをしなくなってしまう。…簡単に言ってしまえば、テニスから離れていく…プロになんて程遠いけれど、言葉を借りるとするなら『引退』というもので間違いは無いだろう。
「テニスを捨てるのと同義なんだよ、この戦いで負ける事は。プレッシャーは強いけど、逆境の中でも完全な勝利をこの手に収めようか、蔵」
「Aさんが居るべき場所を奪わせたりせえへん…勝負や！」
手元にあるラケットをそれぞれが携えた状態のまま、私達二人は革命軍の声援込みで敵対する彼等に鋭さを滲ませた視線を投げ付ける。その先に居るナタリアは二人の少年に声を掛けていた。
「…完膚無きまでに叩き潰して頂けたら幸いですわ」
「分かっているよ、ナタリアさん」
「勝利の花をお前に他向けよう」
隣に立つ蔵の雰囲気が固くなるのも無理は無いのだろう。何と言っても、中学テニス界では名の通る二人が刺客の様にして向けられたのだから。本来、ダブルスなんて組む事が無い二人が、この場で組むという事はそれだけ本気なのだろうか。私の記憶の中ではこの二人がダブルスを組んだ事なんて無く、日々のサーキットメニューでもそんな事は無かった。しかしその場凌ぎで作られたダブルスならば未だ勝率はある。私達もそれは同じだから。…そもそも私を止めようとした蔵を回避したかっただけなんだと言ってしまうとそれまでだけれど。
「油断はいけませんわ、このお二方は以前から練習していましたから」
「跡部景吾と幸村精市が…
ナタリアの言葉に反響する私の呟きは辺りと響めかせ、そして絶望へ突き落とす様なものだった。だけどそれと共に私の内側には闘志が燃え上がる感覚があり、寧ろやる気に満ちて笑えてくる。
「良いよ、それでこそ楽しめる。サプライズを有難う、ナタリア。私の本気に火を点けてくれた」
ナタリア本人は私が右利きだと分かっているし、私の味方となってくれている彼等も理解している。気付いていないのは彼女の取り巻きだ。ならば気付かせるべく、最初は左でラケットを握った。
「向坂A…これ以上ナタリアを苦しめるんじゃねえ」
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作者名：藍梓 | 作成日時：2017年12月14日 23時
