U-17に存在した虚無の番号 Second Games (ページ29)

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Tennis match No.78 ページ29

レストランで、顔馴染みの従業員さんから小さなパンを二個程頂いてから16面コートへと走る。出来たてで少し熱を持つそのパンの味が舌の上で鮮明に刻まれていく感覚が気持ち悪い。大した。食欲が無…のは事実かも知れないけれど、これからする事で一気にカロリーも何もかもを消費するのだから摂取するべきだと自らを奮い立たせて口へパンを押し込む。全ての切っ掛けはナタリアという存在と人の所為には出来ない。私がそもそもロシアから逃げ出して来たのもいけなかった…とは思う。後悔はしていないが。お陰でU-17全体に多大な迷惑を掛けているから今すぐ罪悪感に消えたくなるけど、せめて事態の収拾くらいはしておかないと気も済まない所がある。だからこうして、私は出来る限りの力でこれから事態収拾を始めるのだ。

一度立ち止って、パンを食してしまう。継続される気持ちの悪さはもう気に掛ける事を止めてしまえば無かった事に出来る。全て飲み込んで、深呼吸を数度。視界の端に映る外の世界は未だ暗く、それでも人がぽつぽつと出て来ているのを確認。それはつまり、もう大して時間が無いという事実を私に知らしめている。その人混みに足を向け、音立てて私を雁字搦めにする連鎖を切らなければいけない。

「…何も、怖くない。私は存在しない虚無の番号だ」

私が背負うのは番号だけれど、何も無いという意味しか持たない。そんな番号を背負う事と私という存在、そもそもこのU-17の中だと両方がイレギュラーだと分かったのは、本当に最初の頃だった。今でも後ろめたさは残る。既に他界した両親への顔向けは出来ず、生きている姿を見せても何も言わないのだろう。そして、ナタリア含めその両親には背後に指を差されて強調される。勝ち組と言われる白の代表ジャージを纏う中学生や高校生達にも指を差されて生きるのは、もう良いのだ。慣れてしまった。これ以上、私の様な感覚を味わう人間を作りたくなくて、奔走する。

人混みの中に、ナタリアの姿もあった。彼女に視線を向けると、途端響めく周囲は彼女(ヒロイン)を私(悪役)から守ろうと盾役に徹している。寧ろ滑稽なその様子に、思わず笑いが落ちてしまった。それに激昂する彼等を他所に、ナタリアはその盾役の間を縫って私に接近を仕掛けて来る。私が彼女に声を掛けられると周囲の騒がしさは収まった。

「お久し振りです、A」

「…帰って貰うよ。此処は君みたいな人が居る場所じゃない」

相変わらずの様子に苛立ちは募った。