Tennis match No.50 ページ1
気が遠くなる程、誰かの手やら足やらラケットやらが私に落ちて、私を持ち上げていた。頭の中が混乱して、脳が揺れる感覚だけが妙にくっきりと残っていた。…序盤からこんな調子で大丈夫なのかと不安になった。途中で私が倒れるか、向こうがやれる事をやり尽くしてしまいそうで、不安。今は、彼らが去った事でようやく一瞬の休息。後で身体の方は確認をしなくちゃならないなあ…心配もされたくないし。多分、こうなった事を永四郎は察していると思う。無駄に勘が良いあの子には昔からすぐにバレるのだ。…ほら、足音が聞こえてきた。しかも複数人だから、全員来ちゃったかな。
「A！」
「…えい、しろ」
「もう、やられたのですか」
「…まあ、ね。ごめん…手、貸して」
自分が軟体動物になった様な、こう…無駄に柔らかくなってしまった様な感覚のお陰で力が入らない。痛いから余計に。だから、と最低限として手を借りたかったのだけど。すんなりと永四郎に抱き起こされてしまった。…バレたら寧ろ君達の方が大変なんだって事を分かっているのだろうか。
「…思ったより早かったね。救急キット、持って来たよ」
「ドジ踏んだなあ…有難う、奏多」
「一体、何されたん…？ただボールが飛んで来たなんて感じの傷の方が少ないで」
「…人の手足と、ラケット」
コートの壁に背を預けたら痛んだから、永四郎に支えて貰ったままで羽織った白のジャージの上着を脱いで、その下に着たパーカーも脱いでしまう。自分でも見ていない痣が腕に大量に存在した。…踏まれたな、これ。しかも思い切り、体重を掛けられた様に靴跡までくっきりと残っている。趣味悪いなあ。他にも傷は沢山あって、ここまで来てしまうとどうでも良くなってくるせいで思いを切って半袖のジャージも脱いでしまう。下着くらいはもう動揺できない状態。白石くんには色んな意味で悪いけど、私は傷の確認と手当をして欲しかった。
「うわ、何だいこれ。本当にラケットが落ちて来たみたいに結構深く入った痕があるけど」
「多分振り下ろされたんだと思うよ。背中、踏まれるとか踵落としみたいなのも感じたし」
「…派手にやられましたね、A」
「やめてよ、その顔。沖縄武術で何とかなったとしても対策練られたらアウトだから」
肩を竦めたらやっぱり痛む。永四郎の顔はすっかり心配性が滲んでいて、心が痛い。ごめん、まだ序の口なんだよ、これは。
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作者名：藍梓 | 作成日時：2017年12月14日 23時
