月下美人の君【蒙恬ルート.2】 (ページ10)

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美人薄命.4 ページ10

行商人に頼んで荷造りした荷物を運んでもらう。最後に無理を言って、父上の墓標の前にAは立っていた。

きっと、自分が秦国にいたら
名家の彼の家に傷がついてしまう。

頼るあてなどないが、
幸い自分には、人を殺す才だけはある。
どこかの国で、用心棒などやれば一人で生きていけるだけの金は稼げるだろう…。

王一族の家に迷惑をかけないように、
自分に似た死体を送りつけて、死んだ事にすれば
事は収まって、蒙恬だってきっと諦めて違う女を娶るだろう。

ふと…向や陽を思い出して、

…こんな事がすぐ浮かんでくる辺り
やはり、普通の女性としての生き方は
向いていないのだろう…と自嘲的に笑う。

戦う理由も、守るべき物も、国も失って
空っぽになってしまった。

それでも、これから

蒙恬が幸せに生きてくれれば

…それでいい。

A「父上…。

これから先しばらく、
…墓参りには来れなくなってしまいます。

親不孝な娘を、どうかお許し下さい…」

偉大な父の墓標の前で、最後に涙が流れた。
…泣いてばかりじゃ、ダメだと
鼻をすすって立ち上がろうした瞬間…

王騎の墓石にピシッとヒビが入った。

A「…ッ！…た、たいへん！

どうしよう…！
父上の墓標にヒビが…ッ

急いで修繕して貰わらないと…！！」

ペタペタと他の場所は大丈夫か、
急いで立ち上がって確認するA。

行商人の急かす声も、聞こえないように
必死で父の墓標を直そうとした。

行商人「A様…！

お急ぎを！… 日が暮れると野盗が出て、

危のうございます！」

A「…お願い！

もうちょっとだけ待って！

大切な父の墓標なの！」

行商人「…ですが！…………ッ？！」

突如、喉元に突きつけられた刃に
行商人の男は声を失う。

だが、必死に墓標に向き合っている彼女には
見えていなかった。

蒙恬「……王騎将軍の墓標は

置いてけなくても、

俺のことは置いて行くの？」

それは、此処に居るはずのない人の声だった。

…必死になっていた自分の幻聴かと思い

ゆっくり振り向くと

そこには、肩で息をした

愛しい人が立っていた。