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「あー⋯。あと、名前聞いてもいい?」
『Aです!』
この時、どうして名前を聞いたのか自分でもわからない。
名前を聞いたところでこれっきりで、もう会うことも、関わることもないかもしれないのに。
でもなぜか、彼女のこと知りたいと思った。
「Aちゃんね。Aちゃん、家どこ?」
『ここから電車で30分くらいなんですけど、もう終電終わっちゃってるのでタクシーで帰ります!』
⋯タクシーか。
正直、歩きで帰るとか言われたらどうしようかと思った。
てか普通に考えてこの時間に女子大生が一人で出歩いてるの、やばいけどね。
この時間まで何をしていたのか聞こうとしたけど、余り引き止めるのもどうかと思い、口を噤んだ
あとなんかあんまり詮索してもね、
⋯説教オヤジっぽいし、俺そんなキャラじゃないし。
そんなことを思いつつ、Aちゃんの小さな手のひらに一万円札を置くと思った通り受け取ろうとしないから、
絆創膏と携帯貸してくれたお礼、と言って無理矢理財布に仕舞わせた。
それからAちゃんとバイバイして、駅前のバス停で樹を待っていると、その5分後くらいに目の前で黒い車が止まった。
「樹、本当にありがと」
「ま、きょもに何かあったら嫌だし別にいいよー」
眠そうな顔をしている樹の助手席に座りながら、まず一言目で感謝を伝える。
「てかきょも、誰の携帯で電話かけてきたの?後から見たら非通知番号ってなっててさ。」
「…あーっと、公衆電話」
「ふーん、きょも公衆電話使えたんだ」
「何それ。俺だって公衆電話くらい使えるし」
樹は俺がシートベルトを付けたのを確認すると、シフトレバーを引いた。
半笑いでからかってくる樹を横目に、そんなちっぽけな嘘をついてみる。
なんせ俺は彼女の連絡先も知らないし、何なら住んでる所さえ知らない。
もう一生会えるかも分からない彼女の存在を、どうしてか誰にも、樹さえも、教えたくなかった。
でも、きっと会える。
根拠はないけど、そう思った。
この後まさか本当に偶然再会するとは思ってもみなかったけど、俺にとっては言っちゃえば好都合、だったのかもしれない。
京本大我side fin
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作者名:美虎 | 作成日時:2022年8月24日 21時