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08*彼の嘘 ページ8






日曜日の深夜。


私はまた、あの店に来ている。



席に座ってる彼の後ろに立てば


焦らすように緩慢に振り向く、色白な顔。






「私のピアス…、わざと取りました?」


YG「さぁ。偶然じゃねぇの」


「そんなわけ…!」


YG「証拠でもあんのかよ」




勝ち誇った笑みを浮かべて


頬杖ついて私を見上げる彼は楽しそうだ。



…絶対、嘘だ。偶然なんかじゃない。


だけど物的証拠なんてある訳がない。





YG「取り敢えず、座れば?」





あぁもう、彼に口で勝てる気がしない。


はぁ…と溜息を吐いて彼の隣に座る。



何か彼の思惑通りになってるような。


……だとしてもピアスが返ってくれば何でもいい





YG「何か頼めば。」


「奢ってくれるなら。」


YG「…図々しい女」


「そこが気に入ってるんでしょう?」




なんて。と、冗談にする前に


私の唇に彼の親指が触れる。




YG「………そうだけど?」




……それも、嘘でしょ。


頭の中では分かってるのに


どうしても心臓は素直に跳ねてしまう。



彼の言葉は嘘で塗れてるのに


彼の視線、声、表情がそれを悟らせない




「…触らないで」


YG「は?」


「リップ、落ちるから」


YG「ふーん」




そう言ったら何を思ったのか


ぐいっと彼の親指が私の唇を擦り出す。




「ちょっ…と!」


YG「これ落ちてんの?」


「店の中で女のメイク落とす男が何処にいるの…」


YG「お前、元々、赤っぽいんじゃね。唇」





まぁ確かに…血色は良い方だけど。


だからってリップを擦って落とすって何?


ちょっと理解できない。その思考回路。





YG「ほら。」


「…どうも」




いつの間にか目の前にカクテルが置かれていて、


仕方なくそれに口をつける。




「ところでピアスはどこに…、」


YG「俺の部屋の中。」




思考がいよいよ止まる。




YG「………来る?」




確信めいたその妖艶な笑みを見つめ返す。


脳内で警鐘が鳴ってるような気がしたけど、


それを無視して私も口角を持ち上げる。





彼の嘘にまんまと嵌っている事にも気づかずに。



.

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作者名:ただのルート | 作成日時:2024年2月28日 23時

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